第18話 秘密と約束

ノエラはアンジェラに向かって、白魚のような指で、首のあたりを指差した。


「……の、喉仏が出てる?」

 

(ど、どういうことなんですの!??ノエラは、聖なんですわよね!???というか、聖女は、女性であるが故に聖女というのでは……???)


動揺で、心の中の声が昔の口調に戻りつつあるアンジェラ。


「そう、私は男性です。本名は――ノアといいます。」


当たり前のように言うノエラ………ではなくノア。



(たしかに中性的で、美しい顔立ちに、少し低めの声…。だけど、まさか………こんなことが。つまり、神殿はとんでもない事実を隠している事になりますわよ……。)


「ちなみに、神殿の連中は誰も知りません。」


アンジェラが口を開く前に、ノアがすかさず答える。


「……神殿の者をかばっていますのね?」


「さあ?」


ノアはにやりと笑ってから、クスクスと笑い始める。


(この男……食えない奴ですわ…。)


「まあ、大半の神殿の人間は知りません。私が男だということを。」


「つまりは一部は知ってるわけですね。………それで………なぜこの重大な秘密をわざわざ私に??」


「少しは信頼してもらうためです。これからの付き合いは長くなるでしょうから。」


「なるほど………そういえば、ラドルフ叔父様との婚約話が出ていたわね。」


アンジェラが王城追放を受ける前に最後に見ていた書類が、それに関することだった。


「はい。ラドルフ王弟が王位についた場合のみ、聖女である私がその妻になるという話です。聖女は、並の権力者たちよりも格があるゆえ、王妃という形でしか下賜できないんですよ。」


「………それで、聖女様は、それを避けたいと。」


「まあ、…結論を言えばそうですね。私の恋愛対象は女性ですし、あの能無し男なんかに嫁ぐのはまっぴらなんですよ。」


(………わざわざ、聖女は男だというトップシークレットを開示してくれた…これは……他の情報の正当化がされ次第、信用するしかないわ。それに、むしろこちらも何かしらの情報を手渡さなくてはね…有益な情報を。)


「………貴方様のおっしゃることはわかりました。それでは、また後日お会いしたいと思います。その時に、結論と有益な情報を提示ということでどうでしょうか?」


ノアは男とは思えないくらいにまた美しく微笑んだ。


「もちろんです。3日後、貴方がたの家に馬車を届けさせましょう。それで十分ですか?」


(3日………絶妙な日数ね。)


「お心遣い感謝しますわ。」


「それでは、本日はここまでで…。」


と言うと、ノアはアンジェラの手をとり、その手の甲に口づけをする。


「それと、ノアとお呼びください。アンジェラ王女。」


(………この男…!!ほんとにキザ何だわ!仮にも、聖女よね!??)


「………さようなら、様。本日はお招きいただき、ありがとうございましたわ。」


 

ノアには親しみが少し出てきたが、アンジェラはあえてそれを隠す。


「もう帰られるのですか?お茶とスコーンはどうです?もうすぐ焼きあがりますよ。」


ノアは首元までボタンをとめなおし、さらに上にケープを羽織り直す。


「あ…では、お言葉に甘えて…。」


と言いかけたその時、応接間の扉がはげしくノックされる。


「ノエラ様!至急お伝えしたいことが!!」


「どうぞ、お入りになって。」


ノアは美しくか弱そうな聖女スタイルに戻ると、それと同時に侍女と兵士一人が入ってくる。



「…ル……ン公爵が………、それはもうすごいお怒りで、……すぐさま『玉』を返せと。すぐそこの…にまでおしかけていまして……。それで………の………が………ると。」


ノアに耳打ちする侍女の声が途切れ途切れに聞こえる。


(どなたか来客かしら………被ったのね………もう本題はすましましたし、帰ったほうが良さそうね。)


そして、何かをノアに指示されたのか、侍女たちが部屋を出ていってから、アンジェラは口を開いた。


「聖女様、そろそろお暇させて頂いてもよろしいでしょうか?」



ノアはクククッと笑って、


「あやつも………余裕がないんだなぁ…。」とよくわからないことをつぶやく。


「??」


「いえ、失礼。…えーっとさ私はこれから予定がありますので、お見送りはできませんが…この部屋を出てまっすぐ、突き当りの階段を降りると神殿の玄関ホールになってます。すぐ右が正面出口ですので、そこを通られてください。」


「ご丁寧にありがとうございます。それでは、3日後に。」


アンジェラは、ノアの部屋を後にした。



――――――――――――――――


しばらく、本業が忙しい為、2月上旬まで更新が途切れるかもしれません。ご了承ください。


いつも、応援ありがとうございます。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る