第12話 どうする?アンジェラ

 「王女様でいらっしゃいますよね?」


部屋の空気が凍り付く。


「一度、お披露目の会で、遠目に拝見したことが有りまして…。」


さらに追い打ちをかけるかのように子爵が言う。


「………人の顔を覚えることには長けていまして………間違えないかと。」


子爵は、一度顔を見たら忘れないという特技があった。平凡中の平凡な男………だが、これだけは公爵にも買われている。


アンジェラは真っ青になった。

(嘘ですわよね??子爵とは挨拶したことすらないですのに。記憶力おばけですわよ!!)


「アンが王女......。そういえば、王女様って、赤みがかった茶髪で美人だと......。」


目の前の、珍しい赤みがかった髪を持つアンジェラを、子爵だけでなく、レティーもこちらを訝しげに見始めた。


(まずいですわ!これは絶対に切り抜けなくては!!言い訳言い訳......。)


しかし、生まれてから『王族たるもの、言い訳と嘘を言ってはならない。』という教えのせいか、言い訳の仕方をあまり知らないアンジェラは、とっさに言い訳など出てこなかった。


(ど、どうすれば!?さすがに、知られるのはいろいろとまずいですわ。)


 王女が傲慢で、豪遊をしているわがままな姫だという噂により、不況に苦しむ民からは冷たい目を向けられていることは有名だ。





『コンコンコン!』


部屋のドアがノックされる。


「失礼します。お紅茶と商会で人気の高級お菓子である花々の砂糖漬けをお持ちしました~。」


ルード商会の使用人女性がちょうどふたり入ってきた。


使用人がはいってきたことで、みな口を閉ざす。


彼らは着々とお茶の準備をしていたが、そのうちのひとりがこちらを向いて急に話しかけてきた。


「そういえば、アン先生、王女殿下によく似てると言われませんか?顔立ちがおきれいですから、よく似ていらっしゃいますね。」


「……は、はい......。(似てるも何も本人ですって......。)」


「そういえば、その髪色、王女様カラーですよね~。最近その色に染めるのが流行っているとか......。」


「ええ、そうなんです。流行にのってみまして......。(すみません、地毛です!)」


さらにもう一人の使用人の女性も加わってきた。


「そういえば、私の旦那もそうなんだけど、男って女性の顔の見分けが苦手なんか、しょっちゅう人の顔を間違えてるよ。」


「そうですよね!男性の方って女性の顔、見間違い多いですよね!!」


そろそろ、アンジェラは気が付いてきた。この使用人たちの話に賛同していれば、子爵の誤解(誤解ではないけど)を解けるのではないかと。


「……と、いうわけで、子爵様の見間違えだと思いますわ。その、昔から王女さまに似ているとか言われますので!」


「い、いや、そんなことは......。「そうだよね!アンが王女のわけないですから!」」


子爵の声にかぶせるようにレティーが叫ぶ。


(た、助かりました〜〜。)


「ということで、あとはお二人でごゆっくりなさってください。」


そう言って、使用人たちと一緒にアンジェラは慌てて部屋を後にした。


 去っていこうとする使用人2人に向かってアンジェラは声をかける。


「先ほどは、誤解(誤解ではないけど)をうけていたので、大変助かりましたわ。」


「そう、なら良かった……様。」


「え?あ、アル??!」


なんと、よく見ると、目の前の使用人のうちの一人はアルだった!


「な、なんでここに!?それに、ティオナさん??」


もう一人の使用人は、洗濯仲間の女性であるティオナさんだった。たしか、大通りの花屋さんの奥さんだ。


「ティオナはだよ。」


「だとしても、アルはなぜここに??王城の仕事は??」


「掛け持ちしてる。」


「女装は??」


「ここの仕事は女性のほうが採用されやすくて、女装したんだ。平民ではよくあることだよ。」


後ろでティオナは全力で首を横に振っていたが、アンジェラは気が付かなかった。


それどころか………。


「平民の方って、すごいのですね!!こんなに上手に変装できるだなんて!!」


世間知らずなアンジェラは、アルの言葉を一言も疑うことなく、それを信じたのだった。


「あ、あははは………。」


「そういえば、アルって顔が整ってますわよね?見とれますわ。」


突然のアンジェラの言葉に、ドキッとしたアル。

少し、何かを期待したが………。


「だって、こんなに美少女になるんですもの!こんなにきれいな美少女はなかなかいませんわ〜!!」


(………あ、やっぱりか。)


なんとなく、そんな気がしていた。


(そもそも男として見られてない…!?)


この後いろいろ落ち込んだアルだった。




二人の様子を後ろで見ていたティオナは、アルがかわいそうに思えたそうだ。













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