第7話 週末デート その2

 

「なあ、そこの女、割りと上玉じゃねぇーか。

俺のところに来いよ。欲しいものなら、何でもやるぞ!」


 いかにも貴族ですというような見た目の、でっぷりとしたお腹に真っ赤な顔をした男が話しかけてきた。おそらく、酔っ払っているのだろう。


「失礼ですわね。お断りしますわ。それに、不躾に話しかけないでくださいませ。」


 アンジェラはきっぱりと断った。


「俺は、オルガン男爵様だ!この一帯をおさめてるんだ!貴族に逆らうなど、平民のくせに頭がおかしいのかよ!

 俺がその気になれば、王にだって言いつけて………」


「あら………王に言いつけてどうしますの?まさか、平民が貴族を敬って当たり前だ…など思ってませんわよね?」


「ああ、そうだよ!何もまちがってないだろ!敬って当たり前なんだよ。」


「いいえ、違いますわ。

 王族と貴族は平民によって生かされていますわ。王族や貴族が自分たちだけで生活できるわけがありませんもの。

………といってもわたくしも最近まで、当たり前のことを知りませんでしたけど。」


「フン、そんなわけ無いだろ。王侯貴族が上、平民が下。男が上、女が下。そんなことは昔からのルールなんだよ。」

「それに……政にに女が出しゃばんなよ。女っていうのはな、男をたてるもんだろ?」




「………は?」




(この男は、何を言ってるんだろう、………。いや違う、この男も、城の者たちと同じなだけだわ…。)


嫌な思い出が蘇る。



―――――――――――――


『優秀なんですけど、王女様でいらっしゃいますからね………。』

『男であれば価値があったものだ………。』

『女が学と政を学んで何になるんだ。花嫁修業でもすればよかろうに。』


(やめて…………、やめて、お願いだからやめて。ねえ、誰か、私が女でもいいって言ってよ。お願い、褒めてよ。頑張ったのになんでけなされないといけないの…?)


『………せめて、王子であればなあ…ただの、女が女王になるというのは……。』


(……お父様まで………。)


――――――――――――



「お前、本当に不快だな。というか、迷惑だから、出ていってくれないか??」


アルがアンジェラと男の間に割って入る。


「貴族が上だの、男が上だの、どうでもいい。くだらないんだよ。それって、自分自身に誇れる力がないから、誰かよりも優位に立ちたくて言ってるだけだろ?」


アルの言葉に周りの人たちも賛同する。


「そうだ、そうだ!お前ら貴族さんなんて、畑すら耕せんじゃろうが!」

「女が下ですって?誰が子供を産み育てて、家事をしてると思ってんだよ。」

「てか、そういうやつがいるから、貴族全体の平民からの印象も悪いんだよ。」


男性も、女性も、貴族も、平民も関係なく、みな。



 あまりにも『追い出してくれ』との要望が多かったためか、ついに男爵とそのお付きたちは、店を追い出された。


「兄ちゃん、やるじゃないか。奥さんを守ってこその良い旦那だな。」

「いやあ〜〜二人のおかげでスカッとしたぜ。あいつには散々困らされてたんだ。」

「お嬢ちゃん、大丈夫かい?怖かっただろうに。」



 

 店のお客さんみなとワイワイ楽しみながら、食事を再開することにした。その食事は、言うまでもなく、とても美味しかった。


――――――――――――――


「王女様、ご気分は大丈夫ですか?」


「ええ、ありがとう、アル。わたくしだけでは、恥ずかしながら、言い返せなかったわ。」


「いえ、妻を守るのも夫の役目ですので。」


「そうね、そういえば、一応結婚していたわね。わたくしたち。」



 二人でクスクスと笑う。


「わたくし、平民としてうまくやっていく自信がなかったけど、もう馴染めた気がするわ。」


「………それは良かったです。」


 そろそろ、本格的に冷えてきた。

今日はベッドからアルを追い出さないでおこうとアンジェラは思った。



(あ、そういえば、アルは男爵にあんな口をきく勇気があったのね………。というか、何故かあの口調のほうがしっくりくるというか………?)


 まぁ、いいや。







 






 


 





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