第3話
無言。
警察に電話をして、一同はまさにお葬式みたいな雰囲気で居間のソファーに腰かけていた。
お爺ちゃんは唇を引き結び、テーブルを見つめている。お母さんは両手で顔を覆ってシクシク泣いている。僕はいまだ恐怖で全身が凍りついたままだった。お父さんはそんなお母さんと僕をギュッと抱き寄せてくれたけど、その体からは震えが伝わってきた。
遺体を見つけた時に比べれば、ほんの少しだけだけど冷静さを取り戻した、と。その時の僕達は感じていた。だけど、それでもやっぱり、かなり気が動転していたのだ。
僕達はお婆ちゃんがなぜあんな姿になってしまったのか考えることが出来なかったし、近隣に伝えようとも、その場から逃げようともしなかったのだから。
こつ、こつ。
その時、控えめにノックするような音が玄関からした。
「お巡りさんがもう着いたかな……?」
精気のない顔でお爺ちゃんが立ち上がり、玄関へ向かった。
カリ、カリ。
続けて聞こえてきた音に、僕は弾かれたように立ち上がった。
「チャチャだ!」
チャチャは賢い犬だ。僕が家の中にいると、こうやって玄関を引っ掻いて、エサを貰おうと催促してくることがあった。不安でたまらない僕は、あったかくてふわふわのチャチャを抱き締めたくて、走り出した。
玄関はもう開けられていた。お爺ちゃんの足元に、四つ足の毛むくじゃらの生き物が見える。
チャチャ!
でも、疑問に思った。
その生き物は黒色だった。チャチャは茶色のはずなのに。
他の犬が来たのだろうか?
僕は立ち止まった。
「わあっ!」
叫んだお爺ちゃんが引き戸に飛びつく。僕の横をお父さんが走り抜けていく。
二人は血相を変えて、閉めた戸を力一杯押さえた。
でも、戸の縦格子の向こうで黒い塊が膨んで、それがぶつかってきて。玄関は呆気なく壊れてしまった。
倒れ込んだ二人が狼狽して後ずさる。
立ち上がって、ボトボトと涎を撒き散らすその生き物は、熊だった。
その鼻面はべったりと汚れており、歯の間には服の切れ端や髪の毛が挟まっている。胸の辺りに浮かんでいるのは、赤い三日月模様。
熊は鋭い鉤爪の並んだ前足をあげると、手近な位置にいたお爺ちゃんの顔めがけて振り下ろした。咄嗟に顔を庇ったお爺ちゃんの両腕がザックリと裂ける。
力なく悲鳴をあげる人間に、熊は容赦なんてしなかった。
牙を剥き出し、顔面に噛みつく。すんでのところで背けた顔から耳が千切れ、頬が開いてぶら下がった。
真っ赤に濡れた顔半分。
それを見て、僕は唐突に理解した。
コイツがお婆ちゃんを殺したんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます