第2話

 ハヤシは顔を上げ大きくため息を吐いた、太陽は真上からハヤシを責めるようにジリジリと日差しを照らしている。

「……ここで迷っていてもしょうがないな、ひとまず街に戻ってから考えよう」

 ポケットから20センチほどの簡易的な杖を取り出して、帰省魔法『シークタ』を唱えようとする――その前にハヤシは地面に屈み手で落ち葉を払いのけながら何かを探し始める。

「俺どこに結界張ったっけな〜あれ消してからじゃないとシークタ使えないからなぁ」

 結界は基本、魔物との戦いの際に張るものだ、部外者が他のモンスターが乱入して来ないよう対策するためである。もちろんハヤシのようにトイレや就寝時に魔物に襲われないようにバリケードとして使う場合もある。

「ダメだ見つからない!おかしい……確かにトイレする前に手順は踏んだはずなんだけどな……」

 結界を張る手順は難しいものではない、地面や木、壁などに向かって結界専用の呪文を唱えるだけだ。だが、このような簡単な結界は張れる条件なども限られているものだ。

 例えば、結界を張った者が衰弱していたり意識を失ったりしていると結界の効果は切れる、他にも結界を張る前に妨害魔法が展開されていると新たに結界を張る事はできない。

 そしてもう一つ、既に結界が張られている場合には新しく張る事ができない。冒険者が結界を上手く張れない場合の原因のほとんどはこれが理由である、なぜなら結界を張れる者は冒険者のみならずそれなりの魔物でも容易い事だ。

 つまりは"戦闘前に結界を張ろうと思ったら既に戦闘に巻き込まれていた"というパターンが冒険者は頻繁に遭遇するのだ。

「まさか、な」

 ふと、この深淵の森に生息する魔物が頭に浮かんだ、魔物の名は『催眠デビル』上級魔物であり、冒険者を瞬時に催眠状態にして戦う意志を失わせたまま命を奪う卑劣な魔物。

「そうだ、ここは深淵の森じゃないか、太陽の光なんか届かない深い森……何で今まで気づかなかったんだ」

 ハヤシは腰に下げてる道具袋を弄り『デンキマウスの針』を取り出す、これを身体に刺せば身体中に覚醒電流が走り、"催眠状態"から目を覚ますことができる。

 大きく息を吸って針を左腕に刺す、チクリと軽い痛みを感じ徐々に手足が痺れ始める、一瞬周囲の音が一切聞こえなくなり突然、頭にバチンと何かが破裂したような音が聞こえた。

「痛ええええええええええええ!」

 破裂音と同時に頭の中に強烈な痛みが走り、叫びと同時に思わず目を見開く、そこには見覚えのある3人の姿がそこにはあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る