終わりのはじまり。
小絲 さなこ
終わりのはじまり。
ある朝、空の色が変わったことに気がついた。
よく見ると、遠くに見える稜線も、昨日に比べてくっきり、はっきりしているような気がした。
空には雲がない。
気象アプリの地域の話題をタップする。今日も我が街は平和だ。
アパートの階段を降りる。
大家さんが趣味で手をかけている花壇。昨日までは咲いていなかったはずの赤紫色の朝顔が開いていた。
先日、朝顔は秋の季語だと知った。
朝顔というと、小学生の頃に栽培し、夏休みに家に持ち帰って観察日記をつけさせられたが、最後はどうなったのか思い出せない。
おそらく枯れて親が捨てたのだろうが、その辺りをもうちょっと記録しておけばよかったかな、と今になって思う。
秋が来る。
いや、もう来ているのかもしれない。
ピロン。
メッセージアプリが新着メッセージが届いたことを告げる。
もはや定例となっている。あの人との会合。
変わらない関係。
一歩踏み出せないまま、季節は過ぎ、年月を重ねている。
このところ、疲れているからか、夜間肌寒くなってきたからか、会いたくなる気持ちが膨れ上がっているのを止められない。
このままでいいのかとも思う。
冬になる前には、決着をつけたいと思っているのに。
そういえば、梅雨の頃にも、夏までには……などど思っていたことを思い出す。
このまま……このままずっとかもしれない。
でも、それは問題の先送りにしかならない。
わかってはいるのだけど──
結局のところ、自分が可愛いだけなのだ。
傷つけたく無いなどど言いながらも
一番傷つけたくないのは、自分なのだ。
雪の降る時期には、雪が溶けたらなどど言い
春になったら、もう少し暖かくなったらと言い
夏になったら、今暑いからと言い──
繰り返していく。
とりあえず、返信しなくては。
もう、後戻りできないような言葉を紡ぐ。
秋になる。
貴方と出会い、その手に触れたいと思い始めた季節がやってくる。
終わりのはじまり。 小絲 さなこ @sanako
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます