13.メイドとのお茶会

城の外に出て、庭を歩きながら空を見上げた。

魔法界の空は深い青で、ほとんど秋の空を思わせた。


空の下には、壮大な城がそびえている。無骨過ぎず、豪華すぎない。

私は声を上げた。


「すごい。城ってこんな広かったのね」

「ええ。この城は、第二王子であるローラン様のものです」

「第一王子の城も、さぞかし大きいんでしょうね」

「……」


尋ねてから、少し間があった。言うべきか迷っている、そんな間だった。


「ねぇ、クロエ。一つお願いがあるの。」


私は彼女の方を振り向き、目を見つめた。


「私には、真実を話してもらえる?もう騙したり、嘘をついたりするのは嫌なの。誰も幸せにならないしね」

「それは……」


彼女の声は宙に浮かび、庭にある色とりどりの草花の中へ消えて行った。


「私もあなたに対して嘘をつかない。だからあなたも、私に対して嘘をつかないで」

「都合の悪いことを黙っているのはどうですか?」

「その判断は任せるわ」

「分かりました。聡明なサラ様のことですので、自力でも気付くでしょうから」


クロエは庭の奥を指さした。きれいな指先だった。


「ここから少し行った先に、テラスがあります。そこでお茶をしながらお話するのはどうですか?」


指を差された先を見ると、美しい庭園が見えた。中央に大きな噴水があり、辺りを色とりどりの花が咲き乱れている。


「あそこに座って待っていてください。お茶の準備をしてまいります」

「ありがとう」


彼女は紫色の瞳を、大きく目を開いた。


「どうしたの?私なんか変なこと言った?」

「いえ、今までお仕えした方から、お礼を言われたことが無かったので」


今度は私が驚く番だった。


「そう?挨拶は人間関係の基本じゃない。王族だって、普通の人たちじゃない」

「彼らもかつてはそういった時点からスタートするって、聞いたことがありますね」


言い終えてから、彼女ははっと口を押さえた。


「い、今のは忘れてください。サラ様は話しやすいので、つい……」

「大丈夫よ」

「私、サラ様にお仕えすることができて本当に良かったです」


相変わらず、彼女は無表情のままだ。しかし周りの空気が少し華やいだ気がする。それが彼女の笑い方なのだろう


「いつか本当の笑顔にさせてあげたいな……」


そう思いながら、城へ戻っていく彼女の背中を見送った。

小さな背中だった。それは、ふとある存在を思い出させた。


「そういえば妹たち、どうしてるんだろ」


彼女たちとは久しく会っていない。人間界の第一王子と婚約して、レオナルドの城で暮らしていたからだ。


「よし。クロエに、人間界に戻る方法を聞いてみよう」


ローランに聞いても良いけど、第一王子のなんちゃらがあって、ややこしそうだ。

クロエなら知っていそうだし、こっそり教えてもらえるだろう。


この呟きが、城で思わぬ騒動を招くことになるとは、まだ知らなかった―――

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