10.隠された真実

「かつて地上には人間と魔法使いと魔物が住んでいましたの。彼らの間で争いが起きて、三つの世界に別れたんですわ。天空の魔法界、地上の人間界、地中の冥界に」


リリーの声と共に、目の前に次々と景色が繰り広げられる。

魔法界には魔法使い、地上は人間、地中には魔物が住んでいるようだ。姿の見えないリリーは、「それぞれの世界には弱点があるんですの」と、話を続けた。


「まず天空の魔法界は、魔力に頼っていますわ。魔法で作られた世界だから、魔力が枯渇すれば消えてしまう」


目の前には、巨大な木が出現した。木の周りでは魔法使いたちが、額に汗を垂らして、杖を振り続けている。

「さぼるな!木に魔力を捧げ続けろ!でないと世界が崩壊するぞ!」

「頑張れ、あと少しで交代だ!」

口々に鼓舞し合うも、中には途中で倒れてしまう者もいた。


「地中の冥界は、太陽の光が当たらない。魔物たちの他に、特殊な魔法を使って暮らしている種族もいるみたいだけど。よく分かっていませんの」


次に、地中の中へ移動した。中は空洞で、暗闇だった。見たこともない生物たちがうようよと生息している。頭が二つある蛇、上半身が男性で下半身が牛、ゼリー状の触手。目を背けたくなるグロテスクなナニカも見えた。


「人間界は、条件としては一番良いですわ。でもそこに住む人々は、代償として魔法を使えないことになっている。その取り決めのもと、世界は平和になっていましたの」


やっと馴染みの世界が目の前に広がった。愛らしい白い壁に赤い屋根、石畳の道。私がかつて踏まれた街、踏んでいた場所。


「人間界は不便なところだったはずが、ここ数百年で豊かになったんですわ。魔法界も、冥界も、面白くない。そこで魔法界と冥界で、人間界を乗っ取ろうとしているんですわ」

 

いつもの景色にいくぶんか心が和らいだ私は、姿の見えないリリーに尋ねた。


「どうして人間界はまだ乗っ取られていないの?」

「行き来する方法がないからですわ。それぞれの世界の王族だけが、行き来する方法を知っていますの」

「王族が誰かに秘密を教えたら終わりってことね」

「塵ひとつでも通すと、一族が全員処刑させられますわ」


ひやりとした声が響く。すると、目を覆いたくなるような光景が広がった。魔法使いの男性が斬首され、人間の女性が水攻めをされている。「今、魔法界で起きている問題は……」と彼女は続けた。


「その秘密を知っている第一王子が失踪してしまったことですの。王族としては一大事ですわ。そこで次男であり第二王子のローランが、彼を探しに人間界へ来ましたの」


なるほど、ローランは王族だから人間界に行く方法を知っているのだ。

しかし、そこである疑問が浮かぶ。


「リリーはどうして人間界に行けたの?」

「第一王子に連れて行ってもらったんですの」

「何のために?」

「あたしたち魔法使いを、人間界に解き放つためですわ」


次の瞬間、目の前で大殺戮が繰り広げられた。魔法使いたちが杖を振り、人間たちを次々と殺している。ある者はゴムまりのように身体がはじけ飛び、ある者は綿あめのように肉体を引きちぎられていた。


「おそらく第二王子は、第一王子の企みに気付いたんじゃないかしら。あなたが連れて来られたのも、何か企みがあるはずですわ」


くらくらする頭を押さえているうちに、元いた小部屋に戻された。湖の底のように冷たく、静かだった。


「サラ。あたしと手を組みません?」


彼女の言葉は、まるで水面に落とされた一滴のインクのように、部屋に響いた。

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