第19話 エルサの恋ばな

「ごちそうさまでした、美味しかったね」


「うんうん、ぜったいまた来よう。

 本当に、ごちそうさまでした」


 エルサとあたしはドアを開けてくれているトイズさんと、その隣りでにこにこ顔のリリーさんにお辞儀した。


 トイズさんとの押し問答の末、結局、リリーさんが押し切って、お昼代をだしてくれた。


「トイズ、これからもお代はちゃんと取ってよ。

 じゃないと私、もう誰もここに連れてこないからね」


「あぁ、わかったよ、リリー。

 キミの言うことにしたがうよ」


「それでよし」


 リリーさんとトイズさんは仲睦まじい。

 二人のやりとりは微笑ましく、そして羨ましい…


 そう思ったのはあたしだけではないようで、


「いいよね…あの二人。

 すごくお似合いだし、なんていうか…

 見ていて幸せになる。

 私もいつか…」


「あれあれ? エルサ、もしかして意中の人いるのかな?」


「え、あ――

 まぁ…

 んー、わかんない」


 エルサは照れながら、笑った。


 これは、いるな。


「エルサちゃんは、うちのジャンだよね?

 ルーシねぇもエルサちゃんならしっかり者だから大歓迎だと言ってたよ。

 でも、ジャンはそうゆうの疎そうだから、エルサちゃんから行かないと」


 リリーさんがあたしたちの背中を押しながら、お店の外へと連れ出した。

 それと入れ違いで、数人の女性が店内へと入って行った。


 どうやらあたしたちが入り口をふさいでいたようだ。


 リリーさんはお客さんに「すみません」と会釈して謝ると、彼女たちは「気にしないで」と笑顔でお店の中に去っていった。

 あたしとエルサも、ちゃんと彼女たちに謝罪のお辞儀をした。

 それからトイズさんに手を振り、「また来ます」とあいさつをした。

 

 トイズさんも、「待ってるよ。じゃあね」と、あたしたちに軽く手を振って、お店のドアを閉めた。


「さ、行こうか。

 ラーダねぇの工芸工房へ」


 リリーさんは、あたしたちの先頭に立つと中央の噴水の方へと歩きだした。


「あ、待って、待って、リリーさん。

 エルサが、動かないんだけど…」


 理由は、たぶん、さっきのリリーさんの爆弾発言だろう。

 あたしの隣りのエルサは、その発言後からずっと顔が真っ赤なのだ。


 今朝、宿屋で、二人が会話を交わしていたけど、そうゆう風には見えなかったけどなぁ。

 あたしは今世も前世も恋愛には無縁ぽいしなあ…わかるわけないか。


「大丈夫、エルサちゃん?

 おなか痛い?」


 リリーさんは心配して、エルサのもとまで戻ると、うつむくエルサの顔を覗きこんだ。


「ち、ちがいますから。

 私、そんなんじゃないですから」


「そう? でも無理はしないようにね。

 薬買ってこようか?」


「もう、リリーさんっ、そうじゃないですってばっ」


 エルサは顔を真っ赤にしたまま、先に歩きだしてしまった。


「どうしたのかな? エルサちゃん?」


 本当にわかってないようなので、あたしはリリーさんに耳打ちした。


『リリーさん、エルサはジャンくんのことで照れているんですよ』


『…あぁ、そうゆうことか』


 リリーさんは、クスクスと笑った。


「マーリンちゃんは、ジャンに会ったんだよね?

 あの子、寮飛び出したらしいし。

 私、塔に行く前にルーシねぇのとこも寄ったんだ。

 そしたら、そう言うから。

 ジャンは子供の頃から、曲がったことが嫌いでね。

 たぶん、寮でもなにかあったんだろうな~

 私、ジャンとは歳が近いから姉のつもりなんだけど、あの子、私のこと叔母さんていうの。ひどいでしょ?」


 あはは、とリリーさんは笑いながら、歩きだした。

 あたしもそれに続いた。


「ジャンはさ、エルサちゃんのことが好きなの。

 たぶん、初恋の相手なんじゃないかなあ~」


「え? そうなんですか?」


「うん。あの子態度に出るから。

 エルサちゃんの前だと無口になるの。

 普段、ちょっと生意気なのにね」


「あー確かに。

 いや生意気…というか、ぶっきらぼうというか…

 でも家族思いの人だな、とは思いましたよ」


「そかそか。

 会ったばかりのマーリンちゃんにそこまで理解されるとは、やはり態度に出ちゃってんだね」


「あー、そっか。

 そうですね、確かにそうだ。わかりやすい人かも」


「でしょ?

 実はもう一人そうゆう子を私、知っているの」


 リリーさんは前をゆくエルサの背中を眺めながら、ニコニコしている。

 

 あーエルサのことか、とピンときた。


「エルサとジャンくん、両想いってことなら、くっつけばいいのに」


「そうだよね~

 でもそれが中々できないから、可愛いというか、背中押しちゃおうておもったりとか。

 でもさ、二人でなんとかしないとじゃない?

 とくにジャンは私が入り込むの嫌がるのわかるし。

 まぁエルサちゃんなら、ちょっとカマかけてもいいかな~て。

 だけど、嫌だったみたいね。

 うん、私、もう言わないようにする。

 だけど、マーリンちゃんが誰か好きな人できたときは協力させてね。

 私がちゃんとくっつけて、あ・げ・る」


 リリーさんはいたずらっぽくいいながら、あたしにウィンクした。


 あたしは、はははと愛想笑いでそれをうながした。

 リリーさんはちょっと不満気だ。


「私、ルーシねぇの恋も成功させた実績あんだけどなぁ~


 あ、エルサちゃん、違う違う、どこまで行くのっ。

 戻って、戻ってっ。そうそう、その角を右だよ、右っ。


 …私余計なこと言ったのねぇ。エルサちゃんが道間違うほどに。

 反省だな、これは。

 謝ってくるよ」


 リリーさんは、そう言って、ずんずんと先を歩いているエルサの元へと走っていった。


 エルサは、ぽーっとして、思考が止まってんじゃないだろうか?

 恋愛のことはよくわからないからなぁ…あたし。


 自分も誰か好きになって、そのこと指摘されたら、あーなっちゃうんだろうか?


 エルサはリリーさんに腕を取られ立ち止まっている。

 リリーさんが「エルサちゃん、ごめん、ごめん。大丈夫? 意識ある?」と体をゆすりながら、心配そうにしていた。


 エルサは一人で先に歩きながら、いろいろ考えて脳みそ停止したのかもしれない。


 女の子をそこまでにさせる恋愛とは、なんぞや? だね、これは。


「あたしもいつかそうなってみたいもんだ…」


 街角に立つ二人に追いついて、あたしはエルサの背中を思いっきり叩いた。

 これで目が覚めるでしょう。


「痛っ。

 もうマーリンっ、ひどいよっ」


「エルサがお花畑いってたから、戻しただけだよ。

 リリーさんも謝ってるし、ジャンくんのことは忘れて、工房へ行こう、行こう」


「あ、うん、あ、んー

 別に、ジャンくんのことなんとも…思ってはないこともないけど…

 んんんん――

 リリーさん、私がジャンくんのこと気になってるとか、そのジャンくんには…」


「大丈夫、言わないから。

 さっきはごめんね。

 もう口出さないよ。

 よし、行こう。あと5分も歩けば工房だからさ」


 リリーさんが、エルサに謝ってまた歩きだした。

 エルサは「別に…口だしてくれてもかまわなくもないんだけど…」とぼそぼそいいながら、その後に続いた。


 恋する乙女は複雑ね~ぇ。


 あたしは、やれやれと首をすくめてから、二人の後を追った。

 

 ジャンくんは、すごくイケメンというわけではなかったけど、エルサが好きになるんだもの、良い男なんだろうなあ~

 あのぶっきらぼうな口調でなければ、あたしの中で、もっと印象良かっただろうけど…

 悪い子じゃないてのは感じてるから、エルサを応援してあげようーと。


 とりあえずしばらくは宿屋でお世話になるし、顔を会す機会もあるだろうから、いろいろ情報を集めて、エルサに提供してあげなきゃね。


 なんだろう? この気持ち。

 リリーさんが他人の恋をサポートしたがるのが、ちょっとわかってきたかも。

 

 自分のことじゃないのに、ワクワクドキドキしてきた。

 あたしの協力で、二人がうまくいったら素敵だ、て思うもの。


 これは楽しみが増えましたな、おほほほ。

 


 

 

 


 


 

 




 



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