第16話 都で一番の塔
「わーすごいっ、綺麗っ。
本当に扇形なんだ…この街。
あの白い山二つが教会だよね…まるでホイップクリームみたい。
旧市街って密集してる所が多いねぇ。
あ、でも中央の城塞からがらりと雰囲気が変わるよね。
向こうが新街だものね、だいぶ余裕をもって区画されてるし。
中央大通りは大きな四角い建物多いけど…
でも小さな三角屋根の家がたくさんあるね。
道は碁盤の目ってやつだよねぇ…
てかさ、てかさ、中央大通りの広さがやばいっ。
もう1本筋が通ってますっ! て感じだもんっ」
「マーリンちゃん、だいぶご機嫌ね。
連れてきて良かった」
「ですね」
あたしとエルサは、東のひだまり商店からかなり歩いて、北の城塞近くにある小さな公園でリリーさんと合流した。
そしてそのまま、公園内に建っている曲がってないピサの斜塔に登ったのだ。
都で一番高いという塔ね。
螺旋階段なので、くるくる回って上がるのだけど、階段が外側に面していて景色を眺められたので、あたしはめちゃくちゃ興奮してしまった。
ときたま強い風が吹き抜けるので、とんがり帽子が飛ばされないか心配だったけど…
本当に、都は綺麗なのだ。
高さ的には、どれくらいだろう?
巨大教会よりも高い気もするし、そうでもない気もするし…
遠くの建物って距離感がつかめないよねぇ。
でもあの教会がデカいのはわかる。
後ろを振りかえると、城塞の向こうにお城があって、そこから一直線に中央大通りがはじまっている光景がみごとだ。
お城も相当デカく、立派で、とんがった屋根の塔がいくつもあった。
一番高いのは後方に立つ北の塔のようだ。
後ろの山より高くみえる。
あくまでもそうみえる、だけだけど。
城は――表現が難しいのだけど、広い緑の敷地がまず前にあって、次に横長の長方形の石造りの建物がでーんとあって、その後ろに豪華なつんつん屋根の塔がいくつもある建物が正三角形を感じさせるシルエットで高々と建っている感じ。
「お城がすごすぎて、街の美しさが一瞬吹っ飛んだよ」
あたしが城を見上げながら「はぁ…」とため息をつくと、二人は「だよね」と笑った。
「あんなすごいお城があるんだもん、フィホンはめちゃくちゃ豊かな国なんだねぇ。
あたしの田舎は豊かさを実感しなかったけど、都にでてきて、そう思うよ」
あたしが、胸の高さまである塔の手すりにほほ杖をつきながら街をながめぼやくと、笑顔のリリーさんが声をかけてくれた。
「これでも大陸で一番じゃないんだよ、フィホンは。
豊かではあるけど、もっとすごい国はたくさんあるよ」
「うそ? そうなんですか?
これよりすごい国がまだいくつもあるんだ…」
「うんうん、大陸はすごく広いからね。
フィホンは大陸の中央でしょ? でもその先、東西南北に国々はあるから」
「ねぇ、マーリンは聞いたことあるかな?」
「ん?」
あたしの隣りにやってきたエルサが南の方を指さしたので、なんとなしにそれを目で追った。
「南の街道あるでしょ?
西に大きな森があって、東には川と草原。
あそこ一帯は遥か昔、海だったんだって。
信じられる?
一番近い海って、馬車の旅で3ヶ月くらいかかる距離にあるんだよ」
「いやいや、信じられないよ。
あそこが海だったとか…想像もできないもん。
そもそもここで生まれてから海なんて見たことないし…」
「私もない。本で読んだり人から聞いただけ。
湖よりも大きくて塩が取れる、てくらいしか知らない…」
あたしとエルサがため息をつくと、リリーさんが笑いながら、あたしたちの背中をポンと軽く叩いた。
「海だった、てのは本当だよ。
近くの山で塩採れるもの。
エルサもそれは知ってるでしょ?」
「あ、確かに――」
「この世界にまだ神々が居た頃の話しなんだけどね。
世界終末という天変地異が起きたのよ。
それでフィホン以外の国が一度消滅したの。
フィホンはもともと島でね、世界終末の時に海が隆起して、周辺に土地が現れたんだって。
それはやがて大陸になったの。
その頃、今みたいに魔物が増えだして、フィホンに聖女様と聖獣が現れ魔物を一掃た、て話し。
私が子供の頃はよく読まれていた絵本なんだけど…
二人は知らないみたいね」
「うん、ちょっと記憶にないです」
「私も…聞いたことあるような、ないような…」
「そかそか、これが世代ってやつね。
私もおばさんか~」
「いや、リリーさんは若いですっ」
「リリーさんは若いってば」
あたしとエルサが慌ててリリーさんに否定したのが、ほぼ同時になってしまった。
リリーさんはその様子に噴き出してしまい、「ありがとね」と、ちょっとだけでた涙を指で軽くぬぐった。
「――で、マーリンちゃん。
どうだったの? 商工会ギルド。
お店は待てそう?」
「はい、リリーさん。
なんとかエルサのおじぃさんが…というか会長が、力を貸してくれるそうです」
「うんうん、それで紙のアクセサリーを売るんだよね」
んー、そうなんだろうけども…
めっちゃ笑顔のエルサは、あたしが人形師になるつもりだというのを忘れているようだ…
「あぁ、それは素敵だね。
良いアイデアだと思う。
私、ここに来る前に、もらった紙の花を真ん中の姉に預けてきたの。
硬化の魔法してもらうために。
すごく素敵だから、壊れないようにね」
「あ、そっか。
ラーダさん、工芸工房だった。
すごい人のこと忘れてた。
マーリン、折り紙のアクセサリーの硬化、ラーダさんに頼むといいかも。
少しだけ風変りだけど、依頼したものはだいたい作ってくれるんだよ。
あそこの工房は3人だけど、みんな腕利きなんだよ。
マーリンは、リリーさんの友だちなんだから、安くしてもらえるよ、きっと」
「なになに?
こうゆう話しも出たんだ、商工会ギルドで。
なら、お昼ごはん食べたあとで、姉の工房行ってみる?
私も預けたものを受けとりたいし」
「いいですね、それ。
マーリンも、いいよね。
だってお店のことだものね。
話しつけとく方が良いよ、うんうん」
「うん、まぁ…そうね…」
あたしの返事はどうでもよい感じで、二人はなぜか大盛り上がりしている。
ありがたいんだけど…
なんていうか…
本当に折り紙でお金稼げるんだろうか? て、思っちゃうんだよねぇ…
子供の手遊びくらいのものしか作れないんだけど、あたし。
「そうと決まれば、ごはんごはん。
ちょうどおすすめの喫茶店も、姉の工房に近いとこにあるんだよ。
西の夕日商店街。
前に花屋だったところなんだけど…店主のおばあさん亡くなって、よそに住んでる家族が引き払ったの。
そこを学院の食堂勤めしてた人が買い取って、喫茶店にしたんだけど、すごく美味しいの。おすすめはハンバーグってやつ。
なんでもよそから学院に転入してきた女子が、レシピを考案して譲ったんだって。
その子がいろいろ考案した料理を学院の外でも食べられるようにしたいからて、店主が頼みこんで独立したらしんだけど、評判がすこぶるよくって。
ちなみに、本店は新街にあるの。
西の夕日商店街は支店ね。
あそこ西の森方面だから、人少なくて、穴場よ」
リリーさんは、しゃべりながらうきうきしているのがわかる。
エルサも興味あるようで、「おぉ」とか言いながら、うなずいていた。
ハンバーグか~
懐かしいなあ~
フィホンにはない料理だけど、他国には普通にあるのかもしれない。
西の夕日商店街か…
あたしは西の方角を見た。
大きな森が西側の城壁にかかっている場所がわりとある。
枝切るにも範囲が広いか…
「ねぇ、リリーさん。
なんで西の森方面だと穴場なんですか?」
ふとそう思ったので、質問してみた。
「――森に魔物がひそんでいるから。
西の城壁は森が迫りすぎていて、いつ魔物が飛び出してくるかわからない怖さがあるの。
と、いっても。
城壁には魔物除けの魔法陣が描かえているんだけど…
気分的にみんな避けたいみたいなの、森の近くって。
西の夕日商店街は西の城壁から離れているんだけど、西は森の近く、てイメージついてしまってるんだよね。
西の城壁近くには家が建ってないでしょ?
東は、城壁のぎりぎりまで家建っているのに。
だから西側だけ、城壁に沿って草地がずっーと続いてるの。
土地があっても、西の城壁から最低でも500メートルくらいは離してみんな家を建てているわけ」
「ここ最近、本当に西側を嫌がる人が増えてる気がする。
まぁそれだけ魔物が増えたってことなんだと思うけど…」
エルサはリリーさんの話しにうなずきながら、あたしの隣りでため息をついた。
「私、子供の頃は西の草地でよく遊んでたから、なんか寂しい」
「私もだよ、エルサちゃん。
西の草地は綺麗な野花も多いからね。
早く魔物が一掃されるといいのだけど…
聖女様がいるのかいないのか…情報もないしねぇ。
さ、そんなことより、ごはん行こう」
リリーさんはあたしとエルサの背中を軽く叩いて、階段へと歩きだした。
あたしとエルサは、お互いにうなずいて、リリーさんの後を追った。
とりあえず、聖女話しは聞きたくもないのでスルーだわ。
あたしの主役感が削げられるもの。
ほほほ。
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