第13話 商工会ギルドへ、れっつらご~

 翌朝、快適な気分で目覚めることができた。

 旅立ってから、ここまでぐっすりと眠れたのは初めてだ。

 やっぱり布団が清潔で、ふわふわ感も気持ち良かったからだろう。

 

 あたしは前世で中学生の時、同級生の女の子たちが三つ編みで登校する姿に憧れていた。なんだったらセーラー服も着たかった。

 当時のあたしは校則で丸坊主男子だったし、首のカラーが痛くて嫌だった学ランを着せられていたし…


 だからかなあ?


 今のあたしは三つ編み大好き女子だ。

 毎朝、髪を編むのがめんどくさいんだけど、でもなんかそれがイイ。

 そのめんどくさいんだけど~と思いながら編むのが至福なのだ。

 前世のドルおじだった記憶を思い出してからは、なおさら女子である、ということに、あたしは喜びを感じて生きているのだ。


 しかも美少女よ、あたし。


 でもこの世界ではあまりにも美男美女が多いので、たぶん普通顔かもしれないんだけど…


 あたし的には、最高かよっ、てフェイスだ。


 むっさいおじさんだったからさ、前の人生は。


「さてと。

 食堂に行って、朝ごはんもらって…

 エルサとの約束は何時だっけか? 9時だっけ? 9時半だっけ?

 まぁいいか、迎えに来てくれるっていってたし。

 一階で待てばいいか」


 時刻は8時半。

 あたしは窓を開けて、空気の入れ替えをした。

 清々しい。

 宿屋の裏庭には、赤い花がたくさん咲いている。

 しかも芝だ。

 寝っ転がったら気持ちよさそうだ。


――ん? 誰だろう?


 裏庭を出てゆく長身の金髪女性がいた。

 髪は長く、後ろで1本に束ねている。

 どうやら裏道に抜けられる戸があるようだ。

 すごく姿勢がいい。そして早歩きだ。

 あっというまに庭を出ていった。

 そして裏道に出て、建物の角を曲がって消えた。


「…リリーさんの真ん中のおねぇさんだろうか?

 裏口から来るとかいってたよな?」


 ま、いいか。

 おなかぺこぺこ。


 あたしは窓を閉めて、部屋を出た。

 それからドアについているプレートに、昨日受け取ったブレスレットをかざした。


「これで施錠は、よし。

 さーごはん、ごはん~」


 廊下を進むと、すごく良い香りがしてきた。

 それは階段をおりると、強く香った。


「おはよう、マーリンちゃん。

 朝ごはん、ちょうど並べ終えたとこよ。

 さあ、テーブルについて。

 私たちと一緒だけど、いいよね?」


「はい、ありがとうございます」


 あたしが一階につくと、食堂からルーシさんが声をかけてくれた。

 一番奥のテーブルに食事が乗っている。

 そして、知らない男子がご飯を食べていた。


「…旦那さん? にしては、若いような?」


 あたしがテーブルに近づくと、ルーシさんが笑顔で手招きをして、椅子を引いてくれた。

 ここに座れと、ということだ。

 見知らぬ男子の隣りだ。


「マーリンちゃん、これ、うちの息子ね。

 ほら、ジャン、あいさつは」


「ども」


「はぁ、ども…おはようございます」


 息子、いたんかーい。

 しかもわりと年齢あたしに近い気がするんだけど…


「この子、学院の寮にいたんだけど、友だちとケンカして実家にもどってきたのよ、昨晩ね。

 家だと勉強に集中できないからって、出ていったのに、家の方が気兼ねなく勉強が出来るから戻ってきた、ていうのよ。

 もう可笑しくって」


 ルーシさんはご機嫌だ。


「母さん、べらべらしゃべらなくていいから」


「あら、ごめんごめん。

 男の子って、歳の近い女子にはカッコつけたいもんよね」


「違うし」


「はいはい、そうゆうことにしましょうか。

 マーリンちゃん、ミルク飲むでしょ? 

 旦那が今、買いに行ってるからね。

 私はちょっと洗濯物干してきちゃうわ。

 先に食べていてね。

 ジャン、ちゃんとお話ししなさいよ。

 タイプでしょ?」


「ちげーし」


 ルーシさんは、あははと笑いながら、奥の部屋へと消えていった。

 あたしは席について、どうしたものかと…


「食えよ。冷めるから」


「あ、うん。いただきます」


 あたしは、すすめられるままに、パンに手をのばした。

 隣りのジャンくんは、ちょっと不機嫌そう? だ。

 思春期てやつだな、これ。


「違うから」


「え?」

 

 あたしがパンをちぎって口に運ぼうとしたら、そういわれた。

 どうゆう意味? 食べ方が違うのか?


「オレ、母さんの子供じゃないから。

 母さんの年齢でオレが子供とか、おかしいて思ったんだろ?」


「ぇ? あ、ああ、うん…まぁ…」


 あたしは別にそこまで気にもしなかったのだけど、彼はかってに気にしていたようだったので、一応うなずいた。


「前の母親はオヤジに呆れて出ていったんだよ。

 なんでも完璧じゃないと気が済まない人でさ。

 オヤジ計算苦手だからさ、イライラしてたんだろうさ。

 あの人の不機嫌な顔しか記憶ねぇーもん、オレ」


「そうなんだ…」


 あたしは、ちぎったパンをほおばった。

 美味しい。やっぱここの料理は最高かよっ。


「オレは母さんとオヤジが一緒になってくれて感謝してんだ。

 すげー明るい人だからさ。それに、よくしてくれるしな」


 ちょっとはにかむ男子で、可愛いやつだ。

 でもあたしは、なんにもきいてはいないのだけど。

 思春期男子は、母のことをしゃべりたい年頃なのだろうか?


「学院に通ってるってことは、優秀なんだね。

 ジャンくんは、いくつ?」


「17。

 別に優秀じゃーねーし」


 ほうほう、あたしの1個上か。

 たしかルーシさんが31だから、もし本当の母親ならば14才で産んだことになるのか…

 そう考えたらこの年齢の息子に疑問を持つか。

 正直、朝だから――そこまで頭が回らなかったけど。


「ジャンくんは、将来なにを目指してるの?

 学院に行くってことは宿屋継ぐ気がないんでしょ?」


 あたしは目玉焼きをつぶして、ちぎったパンに黄身をつけた。

 この食べ方が、子供の頃から好きなのだ。

 隣りを見ると、ジャンくんも同じようにしていた。


「ジャンでいいよ。

 おまえ16なんだろ? 一つ違いなら呼び捨てでかまわない。

 オレは騎士を目指してる。

 宿屋を継ぐかどうかはわからない。

 今は、騎士に合格することだけを考えているからな。

 でも優秀ってわけじゃない。最下位だから――オレ」


 えっと、それをきいてあたしはなんといえばいいのだろうか…?


「んーあの、えっと…じゃ、ジャン、えっと…」


「こら、ジャン、彼女が困るようなこというなよ。

 おまえが最下位ときいて、がんばれ、とか気軽にいえないだろ?

 出会ったばっかなのに。

 可愛い子に応援してもらいたいとか、図々しいぞ」


「ちげーし。

 事実いっただけだし」


 あたしが言葉につまっていたら、奥の部屋から全体的に丸いシルエットの男性がお盆にコップとミルクポットを乗せて、出てきた。


「おはよう、キミが宿泊客のマーリンちゃんだね。

 俺はルーシの旦那さんだ。よろしくな。

 ほい、ミルク。飲むだろ?

 ジャンも」


「あ、どうも…はじめまして。

 そして、おはようございます」


 あたしは頭を下げた。

 この人がここの旦那さんか…でも名前じゃなくルーシの旦那って自分でいうとか。

 面白い人だ。


「オヤジは母さんが好きすぎて、てめぇーの名前をいわねーんだよ。

 悪いな、マーリン」


 いつの間にやら呼び捨てになっている、あたし。

 ジャンは旦那さんがついだミルクを一気に飲み干して、”ふーっ”とため息をついた。


「じゃ、オレ行くから。

 朝練するんだ。

 オヤジ、母さんにそういっといてくれよ。

 じゃあな、マーリン」


「あ、うん。いってらっしゃい」


「ジャン、今日も帰ってくるのか?」


「もう寮には帰んねーよ。

 卒業まで家から通う。

 あいつらと一緒になんか生活できねーし。

 マジばかばっかで、イライラすっから。

 じゃ、行ってくる」


「おう、気をつけてけよ」


 ジャンは、あたしたちに手を上げてあいさつすると、そのまま宿屋の玄関から出ていった。

 のと同時に、入れ違いでエルサが入ってきた。

 二人は知り合いのようで、すれ違いざま「おはよう」とあいさつを交わしていた。


「マーリン、おはようっ。

 ごめん、早かったかなあっ?」

 

 エルサは玄関から、あたしに手を振った。


「ううん、もうごはん終わるからっ」


 あたしはミルクを一気に飲み干して、旦那さんに、「ごちそうさまでした、美味しかったです」とお辞儀をした。

 旦那さんは、すごくうれしそうに「夕飯も期待してくれ」といった。


「あら、マーリンちゃんもう出かけるの?」


「はい」


 洗濯からもどってきたルーシさんは、旦那さんの隣りに腰かけた。


「気をつけてね。

 

 エルサちゃんっ、おはよう。

 マーリンちゃんを、よろしくねっ」


「はーいっ。

 あ、遅れましたが、ルーシさん、ルーシさんの旦那さんっ、おはようございます」


「あいよ、おはようさんっ」


 旦那さんは、大笑いをして、エルサちゃんに手を振った。

 ルーシさんも、手を振っている。


 あたしはエルサのもとに行き、「支度してくるね」と断りをいれた。


「うん、待ってる」


 エルサは今日も可愛い。

 あたしもだけど。


 あたしは階段を駆けのぼって、部屋へと向かった。

 鞄と、とんがり帽子、それにローブを羽織るためだ。

 それがあたしの、お気に入りのファッション。


「商工会ギルドって、どんなとこだろ~?

 楽しみ~ぃ」


 部屋に入って、身支度を整えたあたしは、裏庭に干された洗濯物が気持ち良さげに風になびく姿をみた。


 晴れの日って、本当に大好きだ。

 


 










 




 

 

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