第12話 特別スキル

 食事を終え、しばし雑談をし、二人と別れて部屋に戻ってきたのは午後9時過ぎ。

 夜の街は危険じゃないかと思って二人に”信頼できる男性に送ってもらった方が…”といったら、都は街灯のおかげで夜でも明るいし、巡回警備の騎士たちも街をまわっているので、女ひとりでも心配なく歩けると、笑顔で帰っていった。

 

 フィホンは治安がいいということね。

 田舎の町は人がいなさすぎて、逆に夜も安全だったけど。


 その後あたしはお風呂をいただいて、今は風魔法の魔法陣が刻まれた魔導プレートを使い、髪を乾かしている。

 ようは、ドライヤーだ。


 電気じゃなく魔法を発動させるということだけの違いで、便利な道具の発想は、前世の世界と似ている気がする。


 人が考えることは、どこの世界でも同じなのかもしれない。

 でも無いものもたくさんあるけど。


 例えば携帯電話、それにテレビやパソコン、自動車もない。

 バイクや自転車もないし、飛行機もない。

 掃除機もなければ、冷蔵庫もない。


 魔法陣が組めないのか、その発想がないのか…?


 だけど、コンロや洗濯機はある。街灯などの明かりもあるし、このドライヤーもどきもある。お風呂や水洗トイレも。


 こっちの世界にあって、前の世界にないものもあるか…

 なんでも似たような生活なのに、全部一緒にならないのが面白い。


 髪を乾かし終えて、あたしは”うんんんんっ”と、伸びをした。


 部屋には壁時計が飾られていて、時刻を見たら、もう午後10時半過ぎ。

 あたしはそのままベットに倒れて、ふかふかの布団の感触を楽しんだ。

 お日様の香りがして、とても気持ちがイイ。


 ルーシさんが、ちゃんと布団を干しているのだ。

 宿泊のお客がいなくても、きっと全室を毎日掃除してるんだろうなあ。

 この部屋はすごく綺麗だもの。


「さてと、そろそろ特別ユニークスキルについて、ちゃんと考えますか…」


 あたしは、昼間の鑑定結果を思いながら、天井を見上げた。

 カスタムセット、その言葉で頭をよぎったのはカスタムドールだ。

 前世のあたしは、その趣味を極めてみたいと思っていたから。


 自分でいうのもなんなんだけど、前世のあたしは、わりと手先が器用な方で、裁縫にしろ、粘土細工にしろ、わりあい上手にできる方だった。


 でも、ドールフェイスのカスタムメイクだけは、何回やっても自信がもてなかった。

 ネットオークションなんかで、カスタムフェイスが高額取引されているのをみて、あたしも一度出品したことがある。

 でもまったく売れなかった…

 かなり自信満々で出したから、ショックが大きかったのを覚えている。

 

 それ以来、ずっと自信ないままに、カスタムヘッド作りをしていた。

 趣味だし、そこまですごくなくていいよね? とか言い訳しながら、それでも良いものを作りたくて練習していたのを覚えている。

 完成品の画像をSNSにアップしてドル友さんの反応をよくみていたけど、評判はそこそこで、むしろ気を使わせて”いいね”してもらっていたかもしれない。


 あたしの前世の中で、カスタムドールというのは、たぶんやり残してきたことなんだと思う。


 だから、カスタムセットってスキルはドールのことなんじゃないかと…

 そもそも、今のあたしもドールを作りたい欲で都にでてきたわけだし。


 ということは。

 願ったりかなったりの魔法なんじゃないか、と…


「でも、どうやったらスキルを発動できるのか? 

 まったく心当たりがないんだよなあ…」


 願えば発動するのか?

 はたまた、なにかを犠牲にしないとダメなのか…?


 あたし、ぶっちゃけ一般的な魔法は魔導プレートを通してでしか発動したことないしなあ。

 風とか、火とか…


 本来は、呪文とかあるのかなぁ…?

 学院にいけば教えてもらえるのかな?

 でももう学校で勉強とか、無理。

 前世の学生時代の記憶があまりいいものじゃないからさぁ。

 行きたいとかまったく思わないんだよねぇ。


 あたしがミーリン様に教わったのはわざとしての魔法のみ。

 作った人形に術式の念をこめた魔石を入れる、というものだけ。

 これがなかなか難しくて、脳内でイメージしながら術式を組んで、それを石にこめる魔法を使うのだけど、ちょっとでも気が散ると失敗しちゃうのだ。

 

 子供の頃のあたしは妄想力が強すぎて、思い描くことがどんどん膨らんで余計な展開まで考えちゃって、よく石を割っていた。


 魔石がない身代わり人形は、ただの人型の布の物体でしかない。

 だから、もっとうまく作りたい、てがんばってたけど――


 途中から魔導板が流行りだして、さだめの教会の赤字を理由にしなくなってしまった。ミーリン様も、時代の流れだから仕方ないって諦めていたし。


 でも…

 それがヒントでもあるのかなあ…?

 あたしがスキルを発動するためにできることって、学んだわざのやり方くらいしか思いつかないもの。


 想像するということ。


 強く強く、望むこと。


 自分が求めることではなくて、その先の、わざを手にする人たちの喜びをイメージすること。


 カスタムセット…カスタムドール、カスタムフェイス、カスタム道具…

 あたしのカスタムドールで遊ぶ人たち、そして笑顔…

 

 あたしはとくかくカスタムセットから浮かぶキーワードを思い浮かべて、それをイメージで繋いで、魔法の発動を試みた。


 あたしがカスタムする人形を喜んでくれる人がいる、だからカスタムセットが必要なんだ、と。

 それはとても楽しいこと。

 心残りをこの世界で実現するために必要なもの。

 求められる喜びを知りたいから、やりたい。


 あたしはカスタムドールを作りたいっ。


「――て、感じでいけるだろうか?」


 あたしは脳内で一通りシミュレーションしてみた。


 こうゆうことをしたいから、この過程を経てそうなるんだ、という一連の流れを先に作ったのだ。


 ミーリン様はいつも冷静にやりなさい、て教えてくれた。

 でないと、望む時に望むことができないからと。

 感情任せでは、できるできないの波に影響されてしまう。


 確実に、あたしは出来る、と思い込むこと。

 それがさも当り前の日常なのだ、と。


 そしてその日常は喜びなんだ、と。


 あたりまえがあたりまえだからいいのだ。

 ミーリン様の言葉だけど、あたしもそう思う。



 子供の頃のあたしは感情任せだった気がする。

 冷静さを忘れて、もっともっといっぱい絶対っ、てそう思っていたから、石がたくさん割れたのかもしれない。


「カスタムセット、発動…」


 あたしはベットに寝っ転がったまま、手を天井に向けてつぶやいた。

 あたしなりの感覚で、スキル発動を試してみたのだ。

 

 気楽な感じで。

 どってことないこと。

 でも、その先の喜びを思い描くことは忘れない。

 そうやる方が成功する気がするのだ。


「んー、失敗かな?」

 

 まったくなにも起きないので、あたしは起き上がった。


「――て、これ、ドールフェイス?」


 驚いたあたしのベットの脇に、数体の人形の頭が転がっていた。


 いつでたのか、わからない。


 でも、これはあたしが前世でフェイスメイクしていたカスタムヘッドで間違いない。見覚えがあるもの。


 というか…


「これだけ? いやいや、カスタムセットだよね?

 頭だけって、どうゆうことよ…」


 体とか、化粧道具とか…ないの?


 あたしのイメージが中途半端だったかもしれない。

 ついさっき、カスタムフェイスでオークション0件だったという事実が残念すぎる、とか思っちゃっていたし…

 いや、確実にそんな気がする。

 

 きっと、カスタムフェイスに対しての負い目だけ反映されたのだろう。

 顔をうまく作りたい――て、今でも思うから。


「このドールフェイスだけがでてきちゃったのは…たぶんそのせいだ」


 成功だけど、失敗したんだな、あたし。

 

 でもカスタムセットが、ドールに関するものだったということがちゃんとわかって良かった。

 あたしがかってに思うには、特別ユニークスキルってその人が持つ本質とか、望みがかわりあるんじゃないだろうか?

 

 あたしはミーリン様が、すごく魔法を愛していたのを知っている。

 だからミーリン様の特別ユニークスキルが魔法の無限発動と知った時、それほど驚きはなかった。ずっと魔法使いまくりたかったんだろうな~と。


 あ、アイテムボックスの機能は驚いたけど。


 その人が心の奥底で欲しがるものが特別ユニークスキルなんじゃないだろうか?


 だって、あたし、人形師になりたいんだもん。


「ひとまず…この無数の頭を片付けとくか…

 だって、これだけあってもねぇ…

 いち、にぃ、さん……1ダースか」


 全部で12個のドールヘッドを、あたしは椅子にかけていた鞄のアイテムボックへと仕舞った。


 カスタムセット、必要なものすべてをイメージをするには、まだあたしの本気の想いが足りないのかもしれない。


 お店持てば、無理やりにでもやる気出すはめになるかなあ?

 でないと、なにもしないままつぶれちゃうもんね。

 



 

 


 

 

 


 


 

 

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