第6話 A級ランクの鑑定巫女魔女の部屋

 案内された鑑定部屋は、なにもない、がらーんとした室内だった。

 壁に設置された高い天井まで届く本棚も、すべてからっぽだ。


 正面の大きな窓はステンドグラスで、淡い色彩を室内に落としている。

 その窓辺には大きな机がひとつと椅子が二つ置いてあって、ワカツキさんはそのひとつに腰かけた。

 背もたれやひじ掛けもあり、デザインもオシャレで、かなり立派な椅子だ。


 そしてあたしにも「どうぞ」と、椅子に腰かけるよう、うながした。

 あたしは、”こくん”とうなずいて、部屋に足を踏み入れた。

 すると、大扉がギギギギギィと音をたてて、ゆっくりと閉まった。


 あたしはそのまま進み、肩掛け鞄を抱きかかえ、背もたれのない丸椅子に座った。


「では、鑑定いたしましょう。どうぞ、心安らかに。

 リラックスしてくださいませ。

 すぐ済みますので」


 ワカツキさんは、なにやらブツブツと呪文らしきものを唱えると、あたしの目の前に手のひらをかざして、大きく目を見開いた。


 その瞳が銀色に美しく輝いて、あたしは思わず見入ってしまった。


「風の属性と土の属性の相性が強いようですわ。ただし、性質が攻撃魔法向きではないようですの。むしろ、生活魔法が得意なタイプですわね。

 あと、

 …、ですわね。

 んー、、ですわねぇ」


「はい?」


 あたしはよくわからなくて、聞き返してしまった。


「ですから、マーリンさんの特別ユニークスキルは、カスタムセットなのですわ。まったくもって、意味がわかりませんけども。

 わたくしもはじめてみましたので…どうゆうものかしら、これ?」


 ワカツキさんは、眉間にしわを寄せて首を傾げ、考え込みだした。


 ですぐ思い出すのは、前世のあたしが趣味でしていたドールのことなんだけど――――


 それよりなによりも。


 やっぱりっあたしにも特別ユニークスキルあったのね♪

 それが嬉しいっ。

 その響きだけで、ワクワクするもんっ。


「あたし、特別ユニークスキル持ちだったんですね。

 それって、すごく貴重なものですよね?」


「そうですわね。

 そうそうは持っていないものだと思いますわ。

 ですが…マーリンさん、あなたは特別ユニークスキルのことを、ご存じな様子ですわね。まったく疑問も驚きもしませんものね」


「ぁ…はい。

 孤児のあたしを育ててくれた方が、特別ユニークスキル持ちの、さだめの教会の巫女魔女様だったんです。

 なので、”世の中にはそうゆうものを持っている人がいる”と、教えてくれたんです」


「――そうでしたのね。

 ですが、持っていても秘密にしないといけませんのよ。

 なにせスキルによっては戦争の火種になるかもしれませんから。

 この世界は均衡を保っていても、国同士が必ずしも仲が良いわけではないのです。

 ゆえに、特別ユニークスキルのことは、、鑑定した巫女魔女と本人だけの秘密なのですわ」


「もちろんです。

 あたしを育ててくれた巫女魔女様もご自身のスキルについては、いっさいお答えになりませんでした。

 それにもう他界されましたので…

 ただ、ちょっとあたしに特別ユニークスキル持ちの片鱗がみえていたようで、スキルの存在を前もって教えてくださったのだと思います。きっと注意も兼ねて」


「なるほど。そうゆうことでしたのね。

 ごくたまに、子供のうちに無意識に使う方もいらっしゃると聞いたことがありますわ。マーリンさんは、そのようなことがあったのかもしれませんね。

 ゆえに、そのお亡くなりになられた巫女魔女様も、あえてマーリンさんにスキルの存在をお伝えしていたのでしょうね。

 たいへんに、ご立派な方ですわ。

 あなたのことを愛されていたのだとわかりますから。


 しかしながら、子供を鑑定した場合、特別ユニークスキル持ちであったならば、一旦ふせまして、その子が16才になったときに改めて、法の教会でB級ランク以上の者に鑑定していただくよう伝えるものなのですよ。

 なぜなら、スキルのことは、誰にも知られてはいけませんから。親にもです。


 その巫女魔女様は、さだめの教会の方だそうですが、あなたのために、禁を犯してまでも鑑定をされたのかもしれませんね。D級ランクくらいの鑑定ならば、学院卒でしたら誰でもできてしまいますので」


「そうなんですか?

 鑑定って法の教会の方のみに伝わる魔法かと思っていました」


「C級以上はそうですわ。

 しかしながら、D級は違いますわね。

 個人でちょっと知りたいことってありますでしょう?

 そのような場合のための基礎の基礎、簡単な鑑定は魔法学院の授業で教わりますのよ。


 ただし、他人を鑑定してはいけない、そして物を鑑定してもその結果を人に伝えてはいけない――あくまで自分だけのための鑑定ならば認められておりますの。


 それ以上は法の教会のわざを邪魔することになりますから、たとえ出来たとしても、ご法度ですのよ。


 鑑定は、法で定められた守秘義務がありますの。


 でもまぁ、D級では特別ユニークスキルの判別はできないでしょうけども」


「そうなんだ…知りませんでした。

 

――ところで、ワカツキさん。ひとつ、お伺いしたいんですが。


 もしうっかり特別ユニークスキルのことを、本人もしくは鑑定された法の巫女魔女様が他者にしゃべってしまったとしたら…それはどうなりますか?」


「それはないですわね。

 ご本人は身の危険がありますので、おばかでないかぎり、他者に自分の秘密をいう方はいないかと思いますの。

 もしくはいったとしても、まわりは相手にしないかもしれませんね…なにせ特別ユニークスキルをお持ちではない方が圧倒的に多いのですから。

 知らない人にそれを話せば、頭のおかしい変な方だと思われることでしょうね。


 多くの者は法の教会勤めになって、はじめて特別ユニークスキルがこの世に存在すると知るのですよ。そしてそれは、他言無用なのですわ。


 それに鑑定する巫女魔女は、守秘義務の契約紋を手に刺青してますの。

 しゃべろうとすると、寝てすっかり忘れてしまう魔法がかけられているのですよ。

 これは法の女神フィホンとの契約なのですわ。


 見てください、この手の甲の紋がそれになりますの」


 見ると左手の甲に、灰色の輪っかが幾重にも重なった花のようなデザインの刺青があった。


「なるほどなるほど…」


 あたしは、うなずいた。

 

 うまい具合にルールが決まっているんだね。

 よし、あたしもスキルのことは誰にもいうまい。


「もし心配でしたら、同じように契約紋を入れますわよ。

 自分でうっかり自慢げにしゃべろうものなら、即寝て忘れるように――」


「あ、それは結構です」


「あら、そうですの? 初めての刺青紋、施してみたかったのですが…残念ですわ」


 ワカツキさんは自分の左手をさすりながら、にっこりと笑った。

 年齢的には、あたしより年上だと思うが、まるで少女のように愛らしい。


「そうだ、ワカツキさん。

 あたしの魔力量がどれくらいなものなのかとかも、わかりますか?」


「えぇ、もちろんですわ。

 ちょっとお待ちくださいまし。

 視てみますわね」


 ワカツキさんは、また先ほどと同じように手のひらをあたしの顔の前にだした。


「そうですわね…

 ちょっと多い、くらいでしょうか。

 わたくしよりは少な目ですけども…

 平均よりは、やや多いくらいでしょうか」


「えぇ、そうなんですか?

 あたし、そんなもんなんですか、魔力量?

 おっかしいなぁ…」


「ぇ、あ、はい、そうですわよ。

 なにか疑問に思うことがありますの?」


「はぁ…あのですね…

 アイテムボックスのしまえる重さって、魔力量に関係しているんですよね?」


「そうですわね。

 それが常識かと…」


「あたし、ちょっと人より多く入るみたいなんですよ。

 でもアイテムボックスずっと使用していても、ぜんぜん疲れないです。

 だから、すっごい魔力量持ちなのかな~と――」


「今、アイテムボックスのプレートありますの?

 ちょっと見せていただけないかしら?」


 あたしは抱えていた鞄を開けて、それをワカツキさんに差しだした。


 ワカツキさんはあたしの鞄に顔をつっこんで「ふむふむ」と、アイテムボックス内を探っているようだ。


「マーリンさん、あなた、このアイテムボックスの魔法陣がほどこされた魔導プレート、どこで手に入れまして?」


「ぇ、これですか?

 ミーリン様…あ、あたしを育ててくださった巫女魔女様から10才の時に、誕生日プレゼントでいただいたものなんですよ」


 ワカツキさんは、ため息をついた後、差し出した鞄をあたしに戻した。


「そうゆうことですのね…

 わかりましたわ、マーリンさん。

 あなたの魔力量はまったく関係なく、アイテムボックスは発動していますわ。

 それは魔導プレートに、さらに上重ねで別の魔法陣が刻まれておりますの。本来わたくしは物の鑑定はできないのですが、特別ユニークスキルの波動がでていますから、それがわかりましたのよ。

 

 あなたを育ててくださった巫女魔女様の特別ユニークスキルは、”無限魔法”ですわね。

 もう他界されていますので、ネタばらしをしてしまいましたが、これは絶対に誰にもいってはいけないスキルの部類ですわよ。

 使用もかなり抑えていたんじゃないかと推測しますわ。

 なにせ、国家を揺るがすほどの、とんでもないスキルですもの。


 ずっと魔法が発動したままなんて、絶対に悪用されちゃいますわよね。


 その証拠に、あなたのアイテムボックス、底なしですわ」


 あたしは、驚いて開いた口がふさがらなかった。

 そんなすごいものを、あたしはミーリン様からいただいていたのか…


「わたくし、このこと墓場まで持ってゆきますので、あなたもその覚悟で。

 その鞄を奪われないように、早いうちに所有のプレートを付けることをお勧めしますわ。

 それをつければ、本人以外は使えませんし、失くしたり、盗まれたりしたとしても、必ず手元に舞い戻ってきますのよ。


 最近開発されたものですけども、手ごろなお値段で気軽に入手できますのよ。

 街の雑貨屋なんかをのぞくとよろしいかと。


 しかしながら――

 素晴らしいものですが、同時に恐ろしいものでもありますわね、その鞄。

 他者に知られたら、あなた、いいようにこき使われる可能性もありますわよ。


 なんでもかんでもお入れにならないようにしてくださいませ。

 あくまでも、ちょっとした荷物をいれる程度で留めるように。


 亡くなられた巫女魔女様が、お渡ししたことを後悔されては困りますからね」


 あたしは、無言で”うんうん”とうなずいた。


 家具とか入れ込んで町をでてきちゃったことを、今すごく反省中…

 ミーリン様、あたしに財産だけじゃなく、こんなすんごい鞄まで残してくれて…


 マジ、てんきゅっ。


 本当に、感謝でしかない。


 あたしは膝の上の鞄をなでながら、心からそう思た。

 





 

 

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