第2話 都に入ったはいいけども

「さてと、しばしの住み家を押さえなきゃだね~

 コーエンさんに宿屋の場所を教えてもらったけど…

 ぶっちゃけすぐにでも家を買いたいんだよなあ~

 ここらの相場って、いくらだろうか?」


 実はあたし、目的があって田舎から都に出てきたのだ。


 それは人形師になること。


 管理詰所では、ちょっといいたくなっかたので…伝えなかったけど。


 だって修行にもいかず、小娘が人形工房を始めるとか…

 非常識と思われたくなかったから。


 この都に来たのも、大陸で一番人形職人が多いと聞いたから。


 なんでも、500年前の皇女様が人形にドハマりをして、世界各地の腕のいい人形職人を都に呼び寄せたことで、首都に人形工房がたくさん出来たそうだ。

  

 そして今でも都の貴族や庶民たちに人形が愛されているそうで、ビンテージものとか、アンティークものとか…コレクションとしての価値も見出されているらしい。


 まぁ、あたしとしては、ちゃんと遊んでもらえる人形を作るつもりだけど。

 飾ったりしまったりとか…あたしは前の人生でしなかったので。


 お着替えとか、外へ持ち出したりとか、画像をSNSにアップしたりとか、そうやってめっちゃ遊んでいたから。

 令和の日本は、おじさんが人形を抱えカメラ持って歩いていても、それほど不思議がられない時代だったので、ありがたかった。

 

 しかもあたしは、40過ぎてからミシンを購入し、本や動画を見ながらドール服の作り方を学び、ちょいちょいドール服を縫ていたのだ。


 ノーメイクのフェイスも手に入れて、カスタムメイクとかもやりだしていたくらい、趣味の人形に夢中になっていたんだよね。


 50才独身。両親も他界していない。

 だから、ドールに囲まれてひとりで死んでゆくものと思っていた。

 でもそれは、まだまだ先のことだと――


 なのに。


 50才の誕生日記念に、自分自身へのご褒美として、かなり高額の人形を予約した。それは東京の本店での受け取りが必須で、ド田舎に住んでいたあたしは、お迎えのためにわざわざ早起きをして上京をしたのだ。


 で、浮かれすぎて…

 つい田舎の感覚でまわりをよく見ないまま横断歩道を渡ってしまった。


 そしたら、車にかれちゃった。


 なんかバンがパトカーとカーチェイスをしていたらしくって…

 ようは、それが逃げ続けて信号無視で突入してきたんだよねぇ。


 なんで追われていたのかは、わからない。


 だけど、浮かれモードのあたしには、パトカーのサイレンとかぜんぜん耳に届いてなかったんだよ。青だから渡ろう、て。


 左右確認とかしないで進んだら――

 あっけなく、向こうの世界の人生が終了。


 で、この異世界に新しい命を得て、今ここにいる。


 なんか神様に会った気もしなくもないけども…はっきりとは、覚えていない。

 なにせ前世の記憶を思い出したのも、一年前だし。


 とにかく、マーリンという女の子として、あたしは田舎町で成長したのだ。


 で、育ての親のミーリン様が他界されたので、あたしは自由になったのだ。

 まぁミーリン様との生活も楽しかったけどもね。


 しかもミーリン様は、あたしを養女にしてくれていたので、亡くなったのと同時に、ミーリン様が貯えていた財産が、全部あたしのものになった。


 それはすべて身分板ポジションプレートに資産として入っている。

 

 身分板ポジションプレートは、向こうの世界でいうところの電子マネーの役割に近い機能もあるのだ。


 違うとしたら、本人しか資産確認できないこと。

 使うことも、また同じ。

 他人が確認することも使用することもできない。

 

 なぜなら血の契約を身分板ポジションプレートと交わしているから。

 これによって、その人だけのものになるのだ。


 こーゆうのが魔法の世界観を感じられて、あたしは好きだ。


 で、あたしが契約したのは6才の時。

 魔導プレートの普及をするために、国の出向所が5才以上の町人すべてに行ったのだ。

 なんでも皇帝陛下の指示だったらしい。


 この時、魔力量も自動で測定してくれて、それであたしは、魔女になった。


 魔導プレートは、紛失回避魔法も発動するので、失くしたとしても必ず持ち主の元へと戻ってくる。ありがたい機能付きだ。


 あたしは記憶があまりないのだけど、その時、現金が廃止されたんじゃないかと思う。あきないの教会の神官魔導師たちが、お金を身分板ポジションプレートに反映させて、現金を回収処分したんじゃなかったかなあ…


 あたしのお小遣いを青いローブの男性に渡したような気がするから。

 

 魔導プレートは刻む魔法陣によって、そうゆうことも可能なのだ。


「”資産確認”」


 あたしは首にかけた身分板ポジションプレートを手に取って、そう告げた。


 すると目の前に透過されたスクリーンが現れて、文字と数字が表示された。

 実際には、あたしの脳みそ内で起こっていることなんだけども。


「えーと、総資産額は約6千万ゴールド、と」

 

 あたしは、その金額を改めて見て、口元がゆるんだ。


 ここの世界の通貨単位はGだ。

 10年前に大陸全土で通貨単位が共通化したので、どの国でも使えるようになった。それは魔導プレートの普及と同じ時期だ。


 Gゴールドという通貨単位は、向こうの世界の有名なゲームみたいで、すごく馴染みがある。むしろ、パクリかな? と思ったくらい。


 1Gは、日本円でいうとこの1円だと思う。


 ということは。

 あたし、6千万円を持ってることになる。

 

 すごいなあ~、ミーリン様。


 本当に昔は、”身代わり人形”がバカ売れしていたんだろうなぁ~

 もともと都暮らしで、60過ぎてからモボロの町に来たといってたもんなぁ~

 若い頃は都で相当稼いだんだろうな~あ。


 でもミーリン様は無駄遣いしない方だったし、生活も質素だったから。

 そのおかげで、こんなにもお金を残してくれた。


 マジで、ありがたい。

 子供の頃は”貧乏って悲しい”って思っていたけども…

 今は”うはうは”だ。


 無駄遣いをする気は、もうとうもない。

 これでもあたしは、あのミーリン様の子供だし。


 けどね、この資産を見た時、あたしは迷いなく町を出ようと決めたのだ。


 夢のために、これは使わせていただこうと。


 小さくてもいい、住居兼店舗の空き家があれば…


 どんな感じの店にするとか、まったくノープランだけど、お店は早めに確保しておきたい。第二の人生、向こうの世界で出来なかったことをしたいのだ。

 

 子供の頃は、おもちゃ屋さんになるのが夢だった。


 それは、”男だから”という理由で買ってもらえなかった人形を手に入れて、いつでも遊べると思ったから。


 高校も商業科に入って、経済とか簿記とか珠算とか…そうゆう勉強をしたのも、いつかお店を持ちたいと思ったからだ。


 実際は役場勤めだったけど…


 あの頃、毎日の事務処理がきつかったなあ。

 定時で帰れといわれても、無理は無理。

 やらないと終わらないんだもん…

 だから役人とか、マジでなりたくない。

 

 ぎゅるるるるぅ……


 やべ、おなかすいたかも。

 そりゃそっか、もうお昼過ぎてるだろうからなあ…


 あたしは、スカートのポケットから懐中時計を取りだして、時間を見た。

 懐中時計は、ミーリン様の形見だ。

 なんでも、時の教会勤めの、親友の巫女魔女様の作品だそうだ。

 

――その方は20年前に亡くなったそうだけど。


 時計は、時の教会の専売特許なのだ。

 各教会には得意なわざがあって、それをお金にしている。


 たとえば、さだめの教会だと、命の危険に出会った時に一度だけ身代わりになってくれる”身代わり人形”を商品として作成し、それを売るという感じだ。


 まあ、さだめの教会のわざは、それだけじゃないんだけど。

 呪い返しとか…呪いとか…


 といっても。

 呪いは禁止されているので、建前上は行わないわざだけど。

 

 もともとさだめの教会は売れる商品が少ないので…魔導プレートが出回って、教会としては衰退しているのが現状だ。


 ようは、のだ。

 

 儲かる儲からないだけで教会勤めはしないだろうけど…

 やりがいとか、適性とか、流行りとか…なんかそうゆうの求めているだろうし…


 とにかく、13の教会がそれぞれ専売特許を持っていて、なにかしらの商売をしているのだ。


 13をいうならば、聖獣教会、時の女神アルバ教会、いくさ男神おがみザオル教会、さだめの女神ハピリナ教会、わざの男神リガモロス教会、法の女神フィホン教会、いさりの男神イルフス教会、みのりの女神サーラカウレン教会、弓の男神ギィー教会、杖の女神マルキア教会、薬の男神ポヘロ教会、美の女神ミマトーティ教会、あきないの男神ダダンテ教会。


――これは子供の頃に覚えさせられる、大陸の主神たちだ。

 聖獣は神ではないけど、同等の扱いだ。


 そして13教会を数えるときの順番が決まっていて、それが先ほどの順だ。


 聖獣は、皇帝陛下の命を護るということで、一番最初に数えられる。

 皇国は大陸でフィホン皇国が唯一なので、聖獣は、我が国の皇帝陛下しか護らない、ということになるのだけど…

 それでも、世界で一番最初にあげられるのだ。


 なぜなら、フィホンが中立国であるのと同時に、世界の法であるから。

 法といっても、各国の調整調和を保つ役目の意味だけど。


 ようは、皇帝陛下がというシンボルになっているのだ。


 みなが同じ旗を見上げることで世界はまとまる、ということらしい。

 ミーリン様がそう教えてくれた。

 

 法の国ということで、法の女神フィホンと同じ名前を国名としているそうだ。

 まぁ諸説あるけど…それは、どうでもいいや。


 ちなみに旗には大陸での権力はない。

 あくまでも皇帝陛下は、なだけなのだ。


 あとの並びは神々が誕生した順だ。

 ようは兄弟姉妹の順番。


「んーどうしようかなあ~

 中央の城塞近くに良い宿屋があるなら、その近くには美味しい食堂なんかがありそうだよなあ」


 あたしは肩掛け鞄から都の地図を取りだした。

 モボロの町の本屋で買ったやつだ。


 この鞄はちょっとしかけがあって、見た目は大きく膨らんでいるが、実際はなにも入ってはいない。

 鞄の内側に魔導プレートが縫つけてあって、それにはアイテムボックスの魔法陣が刻まれている。

 ようは、鞄が四次元空間になっているだ。


 アイテムボックスの魔導プレートは、身につけていると常に微量の魔力を消費するので、魔力量が少ない人はあまり使わないらしい。

 しかも魔力量によって入る量も決まるそうで、平均は10キログラムなんだとか。

 

 あたしは、かなり入るタイプだ。

 町を出るとき、実家の教会で使っていた家具やら食器やらをどんどん鞄に詰め込んだけど、ぜ~んぶ入った。


 そして、まったく疲れていない。


 でもそのことは誰にも話してはいけないと、ミーリン様にいわれている。


 もしかしたら、あたしが持っている特別ユニークスキルの影響かもしれない。     

 極まれに、そうゆうものを持って生まれてくる人間がいるそうで、それは一生涯、他人に口外してはいけないそうだ。


 スキルによっては、戦争の火種になる恐れがある。

 そして、身の危険も増えるから。


 そうそう、都に来たもう一つの目的が、その特別ユニークスキルのことだ。


 あたしは、まだ鑑定を受けていないのだ。

 自分自身がどんな魔法属性と相性がいいのか、とか。

 生活魔法と攻撃魔法の適性がどの程度あるのか、とか。

 あと…特別ユニークスキル持ちかどうか…

 もし持っていたら、それはどんなものなのか、とか…

 

 特別ユニークスキル持ちは大陸全体でいうと1割いるかいないからしいので、その存在自体を知らない人がほとんどだそうだ。


 ミーリン様はご自身が特別ユニークスキル持ちだったそうで――

 あたしに特別ユニークスキルが世に中にあるということを教えてくれたのだ。

 

 けど、ミーリン様がどのような特別ユニークスキル持ちだったのかは、絶対に教えてくれなかったけどもね。


 だからこそ、重要な個人情報なのだと、あたしは理解したのだ。


 もしあたしが持っているとすれば、どんなものだろうか…?

 すごく興味がある。


 だから後で、法の教会に行くつもり。

 なぜなら、法の教会の巫女魔女が鑑定特許を持っているからだ。


 確か…B級クラス以上じゃないとダメっていわれたっけなあ~ミーリン様に。

 

 なんでも鑑定にはD,C,B,A,Sという級があって、DとCが一般的だけど、鑑定範囲が狭かったり、すごく簡単なことしかわからないらしいのだ。

 でもその分、お布施は安いらしいけど。

 

 もしあたしが視てもらうなら、B級クラス以上にしなさい、てミーリン様がおっしゃってたもんなあ。

 S級クラスは大陸でも数人しかいないので、そうそう会えないらしいけど。

 A級クラスなら、都にはたくさんいるっていってたし…

 ちょっとお布施の値が張るらしいけど、かなり詳しく視てもらえるそうだから…


「Aにしよ~と。

 て、あたし、お昼ご飯を先に食べなきゃ。

 とりあえず、中央城塞目指すか…

 都の地図によると、教会はみな中央城塞門を抜けた向こうの地区にあるらしいし」


 では、れっつら~ごー♪

 

 あたしは地図を鞄にしまって、中央大通りの歩道を真っすぐ歩きだした。


 街頭もオシャレだ。

 これぜーんぶ、魔導プレートが付けられている。

 この異世界は電気の概念はなくて、雷魔法の応用という仕組みだ。


 のんびりと街散歩まちさんぽ気分~

 フィホンの都は、前世で知っているイタリアの古い街並みに似ている。


 と、いっても。

 テレビや動画で見ただけで、行ったことなんかないけどもね。

 おほほほ。

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