四木村ケイスケのスピーチ

『以上で、四木村式AIおよび電脳用義体に関するスピーチは終わりです』


『最後まで聞いてくださり、ありがとうございました!』


 壇上にて、ヘイアンとタイラが電脳用義体越しにお辞儀をする。


『続いて、受賞したことに関するスピーチをお願いします』


 俺はアナウンスに従い、マイクへと近づき客席を見据える。


 各国から集まった技術者たちが、俺を見つめる。


 俺は意を決して、スピーチを始めた。




「みなさん、こんにちは。私は私立花上高校普通科の2年生、四木村啓助ケイスケです」


「この度はこのような名誉ある賞をいただき、大変ありがたく存じます」


「さて、いきなり身の上話になるのですが、私には発達障害があります。皆さん、スクリーンの方に目を向けてください」


『資料、投影いたします』


 ヘイアンが電脳用義体の拡張パーツを利用し、資料を投影する。


 スクリーンに、俺が手書きで書いたお世辞にも綺麗とは言い難い字がうつし出される。


「このように、生まれつき字を書くことが困難で、そのせいで何度も苦労しました」


「一時は、『文明なんて衰退してしまえ』と自暴自棄な考えに至ることもありました」


「そんなある日、私はチームメンバーで幼馴染でもある喜多村ナナさんによってとある場所に連れていかれ、考えが変わることになりました」


『投影する資料を変更いたします!』


 タイラが空気を読み、話に合った別の資料を投影する。


 スクリーンに、今から5年前にタカセ区で開催された『ロボット展』の様子を撮った写真が映し出される。


 写真には、筆を手に持った人間の腕を模したロボットが写っている。


「国立研究所が主催していた『ロボット展』に連れていかれた私は、人間のように字を書くロボットの展示を見たことで、文明に対する考えを改めました」


「『文明が進めば、代筆ロボが一般化され、手書きという作業から解放されるかもしれない』そんな考えが、頭をよぎりました」


「そして、それ以降はロボット等を動かしているプログラミングの方に興味を持ち、今日に至るまで研鑽を続けてきました」


 俺は無意識のうちにおぼろげになっていた視線をもう一度客席に合わせ、スピーチのまとめの部分に入る。


「今、この人間社会にはさまざな問題がそこら中に存在しています」


「技術の進歩によって、それらのほとんどを解決することができると、私は信じています」


「もちろん、進歩は時に新たな問題を産むかもしれません。しかし、増える問題より減る問題の方が多いことを信じ、私は歩み続けていきたいです」


「これで、私のスピーチは以上です。最後まで聞いてくださり、ありがとうございました」


 俺はその場できっかりと一礼をする。




 破裂音のような拍手が、絶え間なく耳に聞こえてきた。

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