お揃いのハンコと見据える未来

「すみませーん、お届け物です」


 授賞式の手紙が届いた翌日の夕方、俺の家に式とは全然関係ない品が入った宅配便が届いた。


「おお……俺の字よりも綺麗だ……!」


 届いたのは、この間のナナとのデートで発注したオーダーメイドのハンコである。


 フルネームの四木村しきむら啓助けいすけで作ったので、実印や銀行印としても使えるだろう。


「ちょっと……ナナのハンコも見てみたいな」


 そう思い立った数分後には、俺の身体はナナの家にあった。




「じゃじゃーん……これがボクの方のハンコ」


 ナナが喜多村きたむらななと書かれたハンコを見せてくれる。


「おお……当然ではあるがデザインや規格が俺のとお揃いだ」


「フルネームのハンコって、初めて手に入れたけど……なんだか大人っぽいね」


 そう言いながら、ナナは自分のノートに次々と試し押しをしていく。


「……大人になったらさ、こうやってハンコを押す機会も増えるんだろうね」


「まあ、そうだろうな。デカい買い物とか、重要な手続きとかでは必要だろうし」


「未来……楽しみだね」


「……ああ、そうだな。一緒にいい未来にしていこうな」


 1か月前の俺なら絶対に言わないであろうセリフを、俺は惜しげもなく言い放つ。

 

 


 さらにその翌日から、期末テストが始まった。


 俺は『0点冴え取らなければいいか』という低い目標を胸に学校へと向かった。


 すると、俺の机にはこれまでのテストでは絶対に配られなかったタブレット端末が置いてあった。


「あの、先生……これは」


「あなたが書字障害ディスグラフィアであることを踏まえて支給します。検討を祈ります」


「あ、ありがとうございます」


 俺はようやく行われた配慮に対し、きちんと感謝の意を述べた。


 その後行われたテストでは、結局大半がわからなかったものの、いつも以上に応えることができた。


  


 それから1週間後、すべての期末テストが終わり、結果が帰ってきた。


 いままでの怠惰のせいで、どの教科も50点以上は取れなかったものの、0点どころか1桁点の教科すら全くなかった。


 俺の自尊心が、少しだけ回復した気がした。


 なお、ナナの方は複数個1桁のテストがあったようだが、すでに進路が決まっているという安心感のおかげで、さほど不安は感じなかったのだという。


 




 それから月日が少しだけ流れ、12月22日になった。


 授賞式は、翌日にまで迫っていた。

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