そして帰路につく

「ありがとうございましたぁ」


 店から出ていく俺たちを、ハンコ屋の店主さんが見送る。


「楽しみだね……お揃いのハンコ」


「ああ、そうだな。確か、届くのは1週間後だったっけ」


 俺とナナは手をつなぎつつ、カミクラ駅へと向かっていった。


 

 

 それからは、淡々とした代わり映えの無い電車移動が続いていった。


「……ケイスケ。実はボク、今までずっと隠していた隠し事があるんだ」


 電車が虹之橋を渡り始めたころ、ナナが真剣じみた表情で話を切り出す。


「なんだ……?」


「ボク、ヘイアンちゃん本人と結託して、ヘイアンちゃんとその義体をコンテストに出していたんだ……勝手に出してごめんなさい」


「ああ、そうか……」


 俺は彼女のカミングアウトを聞き、彼女の頭を撫でるように手を当てた。


「……大丈夫。そのことはもう、知っている」


「えっ……」


「今朝7時ごろに、ヘイアンが勝手に自分をコンテストに出品してきたことを謝罪してきたんだ。で、全部知った」


「うえっ……?」


「ちなみに、優勝していた。ナナが作った義体の方も、海外のマテ何とかとかいう金属工学の教授から絶賛されていたぞ」


「うっ……ごめん……でもよかった……許して……」


 ナナがいろんな意見や感情がグチャグチャになったような意見を述べる。


「許すも何も、ヘイアンとナナが俺のことを想ってやってくれたことだから、むしろ感謝したいくらいだ。ありがとう、ナナ」


 続いてスマホを出し、ヘイアン達にもメッセージを送る


『ヘイアン、タイラ、俺のために頑張って計画を立てて推敲してくれてありがとう』




 それから俺は、タカセ鉄道環状線に乗り換えたのち、合掌駅で下車した。


 そして、俺とナナの家の間あたりで、解散することになった。


「今日は……ありがとう!楽しかった!また遊ぼう!」


 俺は久しぶりに、明るく大きな声を出し、ナナに感謝の意を伝えた。


「ボクも……楽しかったよ!」


 ナナも、負けじと普段は滅多に聞かない大声で返事をしてくれた。


 それだけでも、本当に本当に幸せで胸がいっぱいになった。



 俺は、幸せで満たされていた。

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