山へのデート編
ハンコの山VSハンコの里
「うーん、でも、普通に山に行くだけじゃなんかつまんないんだよね……」
11月24日金曜日の夜、ナナは悩んでいた。
前日、ナナはヒカリに近所の小さい山にいくよう勧められた。
しかし、この期に及んでナナはその代替案に納得していなかった。
彼女は己が嫌煙している芸術家の父親同様に、センスが奇抜すぎて謎ときできる山程度では納得できなかったのだ。
いままでは「ケイスケの死を止めたい」という思いのあまり押し込んでいた我欲が、ここにきてあふれ出しつつあったのだ。
「……よし、この山ならいいな」
そして、ナナはとんでもない選択ミスをしてしまった。
◆◇◆◇◆
「じゃ、行ってきます」
「気を付けろよな」
「楽しんでくるのです」
11月25日土曜日、俺はナナとのお出かけを行うべく両親に見送られながら自宅を出た。
数日前に警察の厳重注意から帰って来た父さんは、以前よりも暴言がかなり減っていた。
母さんいわく「これ以上子供の人権侵害を行ったら、あなたの病院が廃業になりますよ」と警察から脅されたらしい。
とにかく、家が以前よりも安心できる場所になって本当に良かったし、今すぐに安楽死しなくてよかったと本当に思う。
来週からの8時間授業に関しても、自習室滞在を利用して上手いこと切り抜けようと思う。
幸い、休んだ俺を責めるような性悪はクラス内にいないし、ぞんぶんに休みたい。
「おう、待ったか?」
「ううん、ぜーんぜん……本当は1時間前からいたけど」
待ち合わせ場所である合掌駅にはすでにナナがいた。
「じゃ、今から電車に乗って山にいこっか」
そう言ってナナはさりげなく俺の手を握ってつなぐ。
俺は人の温もりに少し癒されつつ、電車を待つことになった。
それから、俺はタカセ区を通る路線『タカセ鉄道環状線』を使ってタカセ区の中心部である安楽地区に至った。
「……ここから国鉄に乗り換えるね」
徒歩五分で俺たちは国鉄タカセ区駅の改札にたどり着き、そのまま乗車した。
「まあ……タカセ区には山はひとつしかないから出ないといけないよなぁ」
タカセ区ことタカセアーク社自治区は本土からわずかに離れた島に存在する。
そのため、タカセ区内で山といえる場所が黙祷区にある黙祷山くらいしかないのだ。
そのため、ナナが「山に行きたい」と言った時点で、区の外にでる可能性は高いとは思っていたのだ。
「あっ、ついに虹之橋を渡り始めた」
電車が虹橋区と本土の間にかかる唯一の橋である虹之橋を渡り始める。
タカセ区とは比べ物にならないくらい大きな本土が電車へと近づいてくる。
そして、俺たちは本土に上陸した。
『カミクラ駅~カミクラ駅で~す』
「ここで降りるよ」
それから数駅経ったころ、俺はナナに袖を引っ張られ、カミクラ駅で降りることになった。
かつては幕府があったというカミクラ町を歩くこと数分。
目の前に現れたのはハンコ屋さん『ハンコの里』であった。
「なんかライバルがいそうな名前のハンコ屋さんだな……」
「後ろも見て」
ナナの助言にしたがい後ろを向くと……
「向かい側もハンコ屋さんかよ……しかも名前が『ハンコの山』だし……さて、もう満足したから歩き始めていいよ」
俺はここが道のりの途中だと思って移動の再開を促す。
しかし、ナナは動かない。
俺はすべてを察した。
「あの……もしかして、『山』の正体ってこの『ハンコの山』かな……?」
ナナは何も言わず、なぜか潤んだいた目で俺を見ながら1回だけ縦にうなずいた。
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