断罪、和解、親交
「ケイスケ、父さんとジョウスケが警察に連れていかれました」
朝、起きてみたら父さんと弟が家が警察に連行されたことを母さんから告げられた。
「……そうか。2人が連行された原因とかはわかっているのか?」
「いままで、私たちがあなたを冷遇したことが、ジョウスケの密告でバレてしまったのです」
「……」
確かに、今まで俺の父や母が行ってきた所業は、世間一般から見てもネグレクトどころか人権侵害レベルのものであった。
しかし、正直父さんや母さんが罰されてほしいとはあまり思っていなかった。
だって、全部デキソコナイの状態で生まれてきた俺が悪いのだから。
「……ごめんなさい。生まれてきて、ごめんなさい」
俺は、目から雫をこぼし、謝罪の言葉を口にする。
「……いいえ、あなたは悪くないのです。ただ、完璧な状態の子供しか愛せない私たちが悪いの!これは母さんと父さんの罪なの!」
「ごめんなさい……!ごめんなさい!親不孝な息子でごめんなさい!」
「私達こそ!息子を医者への適正という1つの物差しでしか計れなくてごめんなさい!」
俺と同じ表情で謝罪する母さんを見て、俺はますます自分のことが嫌いになった。
『ピンポーン』
「すみません、警察ですがお母さまとケイスケさんもちょっと署の方に来てください」
玄関越しに、警察の声が聞こえてくる。
俺たちはそれに応じ、玄関で待っていた警察によって署へと連れていかれた。
「では、今後は仲良くやってくださいね」
数時間後、取り調べが終わった俺と弟、そして母さんは警察官に見送られながら帰路へとついた。
「……ごめんなさい」
「謝らなくていいのですよ。これは、私とあの人がいつか受けるべき罰だったのですから」
母さんが俺の肩に手を置き、罪悪感にかられないように優しい言葉をかける。
「どうしよう……父さんが刑務所行くことになっちゃったら」
「ジョウスケ、安心してください。警察の人いわく、父さんも今回は厳重注意で済むので心配しなくていいですよ」
父さんは、母さんにくらべてやらかした所業が深刻だったため、今後数日ほど追加で取り調べを受けるらしい。
それでも、母さんの言う通り、厳重注意扱いで済むのだという。
「……また、ここから始めればいいのです。だから、二人ともそんなに罪悪感を持たないでください」
「……うん!」
「……ああ、そうだな」
元気よく返事した弟に合わせ、俺も立ち直ったフリをして返事を行った。
俺の心は、いまだに安楽死の方を向いていた。
『ケイスケさんのお母さま、お久しぶりです』
「まさか、音声による人物の識別までできるとは……」
帰宅後、俺は弟に勧められて母さんにヘイアン四式を見せた。
学習データ蓄積のために、弟には2週間に1回ペースで彼女と会話させているのだが、母さんと会話させるのは実に数か月ぶりであった。
「ヘイアンは私のこと、どう思っているのでしょうか」
『私の制作者であるケイスケさんの実母にあたる人物だと認識しております。それ以外の感想はありません』
「不愛想、ですね」
「じゃあ、僕のことはどう思っているの?」
続いて、ジョウスケがヘイアンに質問する。
『私と楽しく会話してくれるちょっとした友達のような人間。でしょうか』
「なんか好印象ですね」
『まあまあ、私はこれからお母さまとも会話を重ねて、友情を育んでいきたい所存ですので、へそを曲げないでください』
「人工知能なのにやたらと口が達者ですね。……いいでしょう、これからよろしくお願いします」
『こちらこそ、私の妹であるタイラさん共々よろしくお願いいたします』
こうして、俺の希死念慮とは裏腹に母さんとヘイアンとの間に親交が生まれてしまったのであった。
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