合格通知

『おめでとうございます。安楽死権獲得試験、合格です』


11月18日の午後6時、俺の携帯電話に、タカセ区からの電話がかかってきた。


「はい、わかりました……ありがとうございます」


 俺は電話を切り、布団の中に潜り込んだ。


 


「これで……これで、いいんだよな……」


 俺は布団の中で、生まれる前の胎児のようにうずくまった。


 結局、学校を休んで睡眠導入剤を飲んでしっかり寝ても、俺にまとわりつく絶望の霧が晴れることはなかった。


 何日かナナにバーチャル添い寝してもらったときは、すべてを忘れられて気持ちよかったのだが、次第に罪悪感が募っていった。


 そして、『もう大丈夫』と平気なフリをして、断るようにした。


「おいケイスケ。休学中の自主勉はきちんとやったのか。働かざる者、食うべからずだぞ」


 父さんの声が扉越しに聞こえる。


「……うるさい!勝手に母さんに出して、勝手に産んで、勝手に失望しやがって!俺は……俺はもう……生きるのが嫌だ!」

 

「俺たちの期待にそぐわなかった愚かな息子め!オマエなんか組み立て失敗したプラモデル以下だ!」


「もういい……俺、安楽死権使って安楽死する」


「安楽死だと……ふざけんな愚か者!この世にはなあ、生きたくても生きられない人間だっているんだぞ!」


「安楽死権を使って安楽死すれば、俺の臓器がそういう人にとって役に立つのに……!」


「ぐぬぬぅ……」


 俺の父は知っていたのだろう。


 自分たち医療従事者が、安楽死者の臓器にかなり救われていることを。


 タカセ区創設前はドナーを見つけることすら困難だった臓器移植手術が、彼らのおかげでスムーズに進んでいることを。


 息子が安楽死したことを知られれば自分の名誉に傷がつくだろう。


 でも、父さんは俺に新鮮な臓器以上の価値を見出すことができなかった。


 だから、俺の安楽死を行おうとする意思に対し、これ以上反論できなかったのだ。


「……勝手にしろ。この親不孝者」


 そう言ったあと、父さんが自分の部屋へと戻っていく足音が聞こえていった。


 


 それから1時間後、俺は久しぶりに小説を書いた。


 その内容は『安楽死した後、働かなくても尊厳と生命が確保されるユートピアに転生する』という欲望マシマシなものであった。


 その内容の醜悪さに、俺は自分に対して吐き気がした。


「……明日、安楽死申請しようかな」


 俺はうつろな目で、そうボソっと呟いてから睡眠導入下剤で眠りについた。




◆◇◆◇◆




 11月18日23時、四木村センスケの家に警察がやってきた。


彼の息子である四木村ジョウスケが『障害を持つ兄に対し、差別的な言動で虐待している』と警察に密告したのだ。


 センスケは誰がこんなことをしたのか検討がつかないまま、事情聴取のために警察に連れていかれた。

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