もっとキミと一緒にいたい

「ボク、もっとキミと一緒にいたいな。だから、さ……安楽死の件、できればもう少しだけ後にしてくれると……うれしいな」


 隣同士の布団でお互いに寝た状態の中、ナナが寂しそうな表情で俺に語り掛ける。


 


 タカセ区では安楽死もとい死ぬ権利が認められている。


 そして、その権利は何者も害すことができないとされている。


 俺の両親は俺の安楽死に反対していた。


 しかし、その理由は『世間体』という愛を全く感じないものであった。


 しかし、彼らが反対しても俺の安楽死を止めることはできない。


 なぜなら、このタカセ区において死ぬ権利は基本的人権の1つであり、それを妨害することは重篤な人権侵害になって逮捕されるからである。


 だからこそ、俺は堂々と安心して希望部に入り、自分が欲しかったものに向かって活動することがきたのだ。


 しかし今、俺はとても悩んでいる。


 かつてはとても渇望していた安楽死が、自分の未来と共に天秤にかけられたのだ。


 『もっとナナと一緒にいたい』という気持ちと、『このまま行ってもナナごと不幸になる未来しかないのでは』という気持ち


 俺はとても悩んだ。


 とても、とても悩んだ。


 どうあがいてもナナを不幸にしてしまうであろう自分自身を、何度も殺したくなった。


「……俺、多分このまま生き続けていても、キミを不幸にしてしまうと思うよ。……それでも、大丈夫かな」


 ああ、嫌いだ。


 愛する人相手でもネガティブになってしまう自分が。


「うん、大丈夫だよ。……ボクはね、キミと一緒にいるだけで、すっごく幸せだから」


「ううっ……ナナぁ……」


 何度目だろうか。


 また俺は涙を流してしまった。


 それでもナナは俺を布団の中で抱きしめ、俺の耳元でつぶやく。


「よしよし……これからは一緒に幸せになろうね」


 そう言われつつ頭を撫でられ、俺の涙はもはや止まるタイミングを見失ってしまった。


「ううっ……うぐぅ……うっ……!」

 

「ケイスケ……ケイスケ……大好きだよっ、大好きっ!」


 俺たちはさっき言った発言すら忘れるほどに熱くお互いを抱きしめ続けた。


 そして、いつの間にか寝落ちしていた。




「ん……おはよ」

 

 翌朝、真っ先に俺の視界に移ったのは隣にいたナナの顔であった。


 どうやら、彼女の方は俺よりも少し早く起きていたようだ。


「どう?眠れたかな……」


「ああ。久しぶりに日付が変わる前に寝ることができて満足した」


 ここ半年、明日が来るのが怖くてエナドリを飲んで夜更かしをすることばかりだった。


 すごく、すごくいい眠りと目覚めであった。


 俺は今、きちんと眠ったおかげか、いつもより気持ちが前向きになっている気がする。


 だからだろう。


 俺は今の自分の状況を少しでも好転させようと思った。


 そして、とある行動を起こすことを決断した。




「俺、明日は学校休んで、心の病院に行ってくる……そして、心の健康を取り戻して、もう二度とナナを悲しませないようにする」


「そっか。応援しているよ」

 

 

 

 俺はようやく、未来に行くためのへの第一歩を踏み出したような気がする。

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