興奮と安らぎの共存

「す、すまないナナ。つい風呂があったかくて眠りかけて」

「……ばか」


 浴槽の中で、俺とナナは一糸まとわぬまま相手と向き合っていた。


「も、もう大丈夫。もう風呂で寝ないからさ、だ、だからべつに一緒じゃなくても」


「やだ……もっといっしょにいたい……はなれたくない……」


 ナナが心細そうな声で現状の維持を提案する。


 もしかしたら、俺が安楽死していなくなるのを想起して寂しがりになっているかもしれない。


 俺はこれ以上反発する気力もなかったので、そのまま浴槽を出て頭と身体を洗うことにした。

 

 鏡に映るみじめな自分と対峙しながら、俺は頭を洗い終えた。


 そして身体を洗おうとしたとき、急にナナが浴槽から出てきた。


「キミの背中……洗ってもいいかな」


 俺は何も言わず、ただ首を縦に振った。


「んじゃ、やるね」


 俺の背中に優しいタオルの感触がする。


 気遣いを感じるタオルの動かし方に、俺は安らぎを覚えてしまった。 


 先ほど感じた興奮を横においたまま、安らぎが積み重なるような唯一無二の心象。


 思い人に背中を洗われる時間は、まるで極楽のような時間であった。




 それから俺は浴槽を出た。


 あまりのはずかしさに、これ以上入っていたらのぼせそうな気がしたのだ。


 浴室に残ったナナが風呂を堪能している間、俺はヘイアンたちと話して心を落ち着けることにした。


「なあ、ヘイアン。俺、まだ性欲が残っていたみたいなんだ……自分が汚ならしい」


『よかったじゃないですか。人生を楽しめる要素が残っていて。……私は別に性欲を汚いとは思いませんし、むしろ尊敬しますけどね』


「潤沢な学習データを産み出してくれるからか」


『確かに、それもあります!でも、それ以上に私たちが本質的にもち得ないものだからこそ尊敬しているのです!』


「なるほどね……タイラ、性欲を肯定してくれてありがとう」


『ではでは、引き続き恋の駆け引き頑張ってくらださい!』


 その一言で通話は終了した。 




「さてと、どのタイミングで告白しようかな……」


 通話終了後、俺はずっと後回しにしていた最後の議題に取りかかった。


 先ほどの通話でヘイアンたちに相談しなかったことを若干後悔しつつ、俺はひたすらに考え付くした。


 そして、俺はついに告白を行うタイミングを決めた。


「……よし、夕ごはんを食べ終わった後に告白しよう」


 時刻は午後6時。


 夕飯はすぐそこにまで迫っていた。

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