最大火力の投入

「あっ、おかえり……」


「ただいま……」


 トイレから帰って来た俺はソワソワしていた。


 お互いが好意を抱いていることがわかった以上、これから俺がやるべきことは告白をすることのみであった。


 しかし、俺は告白のタイミングの相場にはあまり詳しくなかった。


 他人の恋バナを自分に関係ないと思って真面目に聞かなかったツケがここで来てしまった。


 ヘイアン達にアドバイスをもらうという手もあるが、さっき助けてもらったばっかりなのにまた助けを求めるのは情けなさすぎる。


 ツン、ツン……


 俺の背中をナナが突っつく。


「よかったらさ、ボクん家のお風呂……入ってみない?ついでに入浴剤も入れてさ」

 

「……そうだな。ここ数日入ってないしお言葉に甘えて入ってみるか。入浴剤もありで頼む」


「んじゃ、沸かしておくね」


 そう言ってナナは俺を残して風呂場へ向かって行き、数分後に部屋に戻ってきた。


 


「そろそろ湧く頃だから、準備しておいてね」


「ああ、わかった」


 それから数十分後、俺は着替えを持って言って風呂場に向かっていき、すべての服を脱いだ。


 ナナの家はナナ以外に住んでいる人がいないにも関わらず、清潔に保たれている。


 そのため、風呂場にはカビ1つなかった。

 

 自分の部屋の掃除すらできない俺とは大違いだ。

 

 風呂のフタを開けると、入浴剤で緑色になったお湯からベルガモットの香りが漂ってきた。


 ベルガモットの香りには不安な心を落ち着けてくれる効果があるのだと、図鑑で見たことがある。


 おそらく、現在進行形で気分が沈んでいる俺に合わせて選んでくれたのだろう。


「……ナナは俺のこと、心配してくれているんだな。ごめんな、いっぱい心配させちゃって」


 そう言いつつ、俺は己の身体を湯舟に沈めた。


「……ああ、とっても落ちつく。自宅なんかとは比にならないくらいだ」


 俺は自宅内では落ち着けなかった。


 余計な者を見るような目で見てくる両親と俺を意図的に避ける弟。


 自室から出るだけで心がどんどんグシャグシャになってくる感覚を味わってしまう己の弱い心。


「できれば……ナナの家で暮らしたいな」


 そんな夢見がちなことを考えているうちに、だんだんと眠くなってきた。


 風呂で寝たら死ぬリスクがあることは知っているのに、抗うことができないほどの睡魔が俺を飲み込んでいく。


 最後の理性が飲まれようとしたとき。


『ガララララッ!』


 浴室の扉が開く音が聞こえてきた。


「ん……誰だ……?」


 寝ぼけていた俺をよそに、誰かが浴室に入って来る。


 そして、俺を強く揺さぶる。


「あっ、ヤバっ……!風呂で眠りかけてた……ナナ?」


 振動で意識が覚醒したとき、目の前にはナナがいた。


 ナナはなぜか全裸で涙目だった上に、浴槽に入っていた。




 俺の血流は、局部へと一気に流れ始めた。

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