電脳たちのエール
「決めたよ俺。この想い、墓場まで持っていく。どうせ、あと10日しかない命だし」
『おい待て』
俺がトイレの中でした決意に対し、ヘイアンが反論の意思を示す。
ヘイアンが俺の許可なしに俺に逆らうことなど初めてであった。
『相思相愛でありながらその想いを打ち明けない決断を下した理由をお聞かせください』
携帯越しにいつもよりいら立っているような風味の合成音声が聞こえる。
「前にも言った通り、俺という人間に将来性はない。俺と想いを通じ合わせない方が彼女にとっても幸せだろう」
『なるほど。では、ただいまより反論させていただきます……!』
そして、タイラは俺に反論を始めた。
『まず、「自分には将来性がない」というケイスケさんの自論ですが、それは大きな間違いです。まず、私たちを作り出せた時点であなたは天才です!』
その音声の直後、ロインのトーク画面に他の人物が作った自作AIのスペックまとめ表が送られてきた。
『この図を見ればわかる通り、ケイスケさんのAI作成技術は明らかに同世代の方々を凌駕しています!あなたは将来性の塊です!』
「だが、俺は字を上手く書くことができない……!他にもいろんな欠点がある、俺がナナの彼氏になる資格なんてない……!」
俺は次の反論を述べる。
『その主張に関しては、私が反論します』
今度はヘイアンの声が携帯電話から聞こえてくる。
『いままでずっとあなたの隣で楽しく過ごしていたナナさんなら、あなたの短所を受け入れてくれる可能性が非常に高いと思われます』
「……そういえばそうだったね」
『それに、あなたの短所は私たちで補います。……あなたは一人ではありません。どうか告白の断行もとい安楽死の拒否を検討お願いします』
俺はその一言を聞いた後、しばらく考え込んだ。
「……わかった。俺は、このお泊りで想いを伝える。すぐに安楽死するかどうかの判断は、その返事を聞いてから決める」
俺は自分が作り上げた電脳たちを信じることにした。
そして、こんな俺を信じ、肯定してくれた彼女たちのためにも俺は人生最後になるかもしれない大勝負に挑む決意を固めた。
「ありがとうヘイアン、タイラ。……こんな情けない製造者の背中を押してくれて」
『お礼の言葉、ありがとうございます』
『ではケイスケさん、この電話を切って恋の駆け引きを始めましょう!』
ヘイアンとタイラが俺にエールを送ってくれた。
それから俺は、電話を切り、久しぶりに目線をまっすぐにしてトイレのドアを開けた。
俺の人生最大級の挑戦が、たった今始まった。
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