鈍感男の気付き

「お邪魔します」


 11月11日の夕方、俺はナナのお誘いで彼女の家に泊まることになった。


 ちょうどよかった。


 俺は死ぬ前に、ナナにきちんと今までの感謝を伝える機会が欲しかった。


 きっと今が、その時なのだろう。


 


「……よいしょ。ちょっと失礼するね」


 ナナの自室に案内されてから数分後、あぐらをかいて座る俺の右隣に、ナナが座り込んだ。


 俺とナナとの物理的距離はこれまでよりも更に近くなっており、もはや接触と言っていいものであった。


「寂しい……」


 ナナはそうつぶやきつつ、俺に身体をネコのようにこすりつけた。


「……そういうことされると俺、勘違いしちゃうよ」


 ナナも俺に好意を抱いている。


 そんなことなんて、絶対にないのに。


 こういうことをされてしまったら、そう思い込みたくなってしまう。


 ナナの身体から伝わってくる温もりは、俺が自分の人生を生きる理由に値するくらいに心地よくて安らぐものであった。


 もっと欲しいと、俺の中の卑しい本能が求めてしまう。


 やっぱり俺は、自分が嫌いだ。


「勘違い、してもいいよ」


 頬を赤らめたナナが、俺の思い込みを肯定した。


「そ、それって……」


 ナナの顔が更に赤くなる。


 それを見て、俺は遂に気付いてしまった。


「すまんナナ、ちょっとお手洗い行く」


 俺は混乱して加熱する頭を冷やすべく、便意も尿意もないのにトイレに駆け込んだ。




「……もしかしてこれ、両想いなのか?」


 俺はトイレの中で、ここ数週間のナナの行動を振りかえった。


 明らかに近くなった距離。


 俺と一緒の状態を楽しんでいたであろう言動。


 時々赤らめていた頬や顔。


「もしもしヘイアン。……もしかして、ナナも俺に好意抱いている感じ?」


 俺は家で稼働し続けているヘイアンに電話をかける。


 ヘイアン達はこういう推測は製作者である俺よりもうまいので、念のため聞いてみることにした。


『いまさら気付いたのですか。まるでラブコメの主人公みたいですね』


「マジか……俺、鈍感だったのか……」


『で、どうするんですか。分かってしまった以上、安楽死する前になにか行動をとった方がいいと思いますよ』

『もう、「絶対そんなことはありえない」では逃げられませんっ!』


 タイラの言う通り、俺はもう、自分に対して「この可能性はありえないので考慮しなくていい」と言い訳ができなくなった。


 そろそろ決着をつけなければいけない。


 告白するのか、しないのか。


 そして、このへんで死ぬのか、死なないのか。


 俺の人生における最終決戦が、ナナの家で始まろうとしていた。

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