お泊り最終決戦編
お泊り最終決戦の始まり
「四木村くんは確実に試験に合格し、すぐに安楽死権を使用する。今までの経験上、そうなる可能性が一番高いねぇ……」
11月11日の正午、安楽区のファストフード店にて、淡海ヒカリは後輩である喜多村ナナに自らの予想をしんみりした顔で述べた。
「彼が持つ死ぬ覚悟や生へのこだわりの無さは私が今まで見てきた部長の中でも随一なんでねぇ……彼を止めるのはけっこう難しいよ」
淡海は今までの経験をもとに四木村ケイスケをこの世に引き留める難しさを語る。
「……それでも、ボクはケイスケを止めたい」
「なるほどねぇ……そういえばさ、どうして喜多村さんは四木村さんの安楽死を止めたいのかな」
淡海は今までとは違う真剣な表情で彼女の動機を聞き出そうと質問した。
「……あっ、そ、それは」
「四木村さんはこの世で生きることに絶望し、住んでいる自治体のルールに従い、合法的に死のうとしている。それを止めたい理由、気になるなぁ」
淡海は少しだけ意地悪そうに問い詰める。
彼女は今まで沢山の部活仲間を見送ってきたことで、『死も救いの一種』という考えを持つようになっていた。
そのため、生半可な安楽死の阻止を嫌悪するようになっており、このような態度と質問を取ったのだ。
「……彼のことが、好きだから」
赤面しつつも、ナナはなんとか理由を言い切ることができた。
「なるほどねぇ……いいじゃん、その理由。じゃ、彼の安楽死を止めるためのとっておきの策略、教えてあげるね」
淡海はナナの恋心を肯定し、同時に彼女の意思を肯定した。
「ほら、耳貸して」
「……は、はい!」
こうして、泡海はナナにとっておきの策を耳打ちで伝えたのであった。
『では、最後に我々の最終作戦である『お泊り最終決戦』の要点の確認を行います』
ナナは帰宅後、自室にてヘイアンたちと電話で作戦会議を行っていた。
そして今、その会議も最後のまとめに入っていた。
『まず、ナナさんがケイスケさんに自宅で一泊するように誘い、承諾させます』
『もしも、ケイスケさんがなかなか承諾しなかった場合は私たちで承諾するように誘導します!』
「そこから、この前みたいに一緒に食事しながらケイスケのことを褒めまくるんだよね」
『はい。ケイスケさんは就学以降、親から存在を肯定する言葉をほとんどもらえなかったため、そういった言葉は効果てきめんでしょう』
『ケイスケさんが照れても追撃しましょう!』
「それで、そこからケイスケをお風呂に入らせるんだっけ」
『そうですね。淡海さんいわく、そこで不慮の事故のフリをして風呂に乱入すると三大欲求を刺激できていいそうです』
『養殖ラッキースケベです!』
「それから、ケイスケを布団に寝かせてから隣でボクも寝るんだっけ」
『ですね。淡海さんが言うには、そこで寝相が悪いフリをして布団に入るといいんだとか』
『もし恥ずかしかったオミットするのもアリだと思います!』
「これで以上かな」
『ですね』
『以上ですっ!』
淡海先輩が授けたアドバイス。
それは、お泊り会を通して彼の三大欲求を刺激させまくることによって本能的な生きる意志を活性化させることであった。
人間をよく観察して理解を深めた人間だからこそ考え出せた策略であった。
そして、ヘイアンとタイラはこの案以上に彼に有効な案を出すことはできなかった。
よって、これが最終決戦である。
ナナは安楽死権獲得試験が終わって10分後くらいのタイミングを見計らってケイスケに電話をかけた。
そして、ケイスケに電話をかけて最終決戦を開始させた。
「ケイスケ、今日か明日にでもボクの家に泊まってほしいな」
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