あの日見た夢が現実に近づく日

「花が……生けてある」


 10月24日早朝、喜多村ナナは夢の中で花瓶が上に乗っている机と対面していた。


「まだ誰も来ていないんだね……」


 彼女とその机は、教室の中にいた。


 彼女以外の人とその机以外の机は夢の中には存在しなかった。


「花が生けてあるってことは……この机の子は死んじゃったんだよね……」


 死んでしまった生徒の机の上には花が飾られる。


 この風習はタカセ区においても同様であった。


 ナナは部活の都合上、このような机をよく見ていたため、そのときは大きな驚きも大きな悲しみも抱かなかった。


 しかし、その心は机に書かれた持ち主の名前を見た時、大きく揺らぎ始めた。


「四木村ケイスケ……あ、ああ、いやっ、嫌っ!」


 ケイスケが死ぬ。


 その事象を体験した時、ナナの心はこれまでの人生で一番大きな悲しみを感じた。

 

「ああっ!やだっ……やだよ……ボク、キミがいなくなるの嫌だよ……!」


 そして、夢から目が覚めた時、ナナはこれまで気付いていなかったケイスケへの恋心を感じとった。


 圧倒的な感情の渦は生きる目的の無かった彼女に『ケイスケの死を食い止めて恋仲になる』という目的を提示した。


 その後の彼女は急に積極的に近づいて自らの好意を示すことにより、彼に安楽死を思いとどまらせることにしたのであった。


 


「ついに……やってきちゃったか」


 とある土曜日の朝7時、ナナの部屋にあるデジタル時計は11月11日を示していた。


 安楽死権獲得試験当日である


「結局、試験を止めることは……できなかった。どうしよう……このままケイスケが死んじゃったら……」


 ナナたちはハイスクールIT大賞にAIとロボを両方とも提出することができた。


 しかし、それらを用いた説得は25日以降ではないと使えない。


 そして、その日までに安楽死を申請できる期間が7日ほどあり、その間に何らかの方法でケイスケが安楽死申請をしないようにしないといけないのだ。


『私たち以外の人物の知恵を借りるのはどうでしょうか。例えば、たびたびあなたたちの話に出てくる淡海先輩に相談してみるとか』


 スマホ越しにヘイアンが意見を出す。


「そっか。……そうだね。人間は誰かと協力してより強くなれるもんね……ありがとう、ヘイアンちゃん、タイラちゃん」


『どういたしましてです!』


 ナナはヘイアン達との通話を切った後、淡海先輩にロインでメッセージを送った。


 メッセージ送信から数分後、既読表示がつき、ほどなくして返信メッセージがついた。


 そして正午数分前、安楽地区のファストフード店にて二人は接触した。

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