即身仏未満Xは誰なのか
「頼む!俺はもうどうなっても構わないから、せめてナナだけでも解放してほしい!」
俺は頭で色々考えるよりも早く、目の前の即身仏未満Xに嘆願した。
『……人の話は最後まで聞こうね』
即身仏未満Xはその一言から話を始めた。
『ワタシの目的は、学校や社会への復讐。そして、自らの死だ。質問があるのなら、授業中のように手を挙げてほしいな』
俺はおそるおそる手を挙げた。
『はい、四木村さん』
Xが俺を苗字を呼ぶ。
Xは俺の苗字を知っていたのだ。
「Xさんは俺たちを人質にしたと言っていましたが、どのような要求をどこにしたのでしょうか」
『オマエたち二人の身柄と引き換えに、自らの安楽死をタカセ区に要求するつもりだ。もし、要求が通らなかったら、これを使う』
そう言ってXはカンコドリにあった爆弾と同形状で二回り大きい爆発物を持った。
俺は思わず少し震えてしまった。
『これで質問タイムは終わりだ。ワタシはこれから、特殊な装置で外部に脅迫声明を送る。これ以降は、奥の部屋でじっとしていてほしいな』
そう言ってXは俺たちがいる部屋を出て、再びカギを閉めた。
「もしかしたら……Xさんの中身は、希望部の人だったりして」
Xが奥の部屋を出てから十数分後、ナナが俺にXに関する考察を打ち明けた。
「ボクたちの個人情報を知っている時点で、なんかそんな気がしたんだ」
「確かにそうだな……だったとしても、Xの中身は誰なんだろうか。メモを用意した淡海先輩本人とかかな」
「……いや、もしかしたら例のメモもXの中の人が書いたものだったりして」
「確かにそうだな。だとしたら、それ以外の人かな」
そう言った直後、再び扉が開き、Xが中に入って来た。
『四木村さん、喜多村さん。交渉が難航すればお腹がすくだろう。だからこれ、あげる』
Xが俺たちに渡してきたビニール袋の中にはだいたい2000円分のお菓子やジュースが入っていた。
『残念ながら、交渉は少し難航している。でも安心してほしい。爆弾の存在や人質のおかげで強行突破はしないようだ』
「なるほど……」
『さてと、ワタシはまた交渉に戻るよ。お菓子は餓死しないように計画的に食べてくれ』
そう言ってXは再び扉を閉じた。
「ラムネ、小粒の飴、レモン系炭酸飲料……どれも淡海先輩がよく食べていたり飲んでいたりしている品だ」
俺はXから与えられたお菓子をナナと共に食べつつ、そのことに気付いてしまった。
「本当だ……あっ、このドーナツはキミとボクとで半分こしよ」
「そうだね」
「ん、どうぞ」
俺はナナから差し出されたドーナツを食べながらこの偶然の原因を考え始めた。
やはりXの中身が泡海先輩だからだろうか。
いや、泡海先輩は「死にたい」なんて一言も言ったことがないしそういう意思もおそらくないだろう。
それに、即身仏Xの全長は泡海先輩と同じくらい、だいたい165㎝くらいだ。
パワードスーツを着れば必然的に着ぶくれし、確実に中の人本来の背丈や体格よりも大きくなってしまう。
そのため、Xの中の人はほぼ確実に泡海先輩ではない。
では、いったい誰が中身なのだろうか。
「にしてもこんな量のお菓子、いつ用意したんだろう……」
「多分、休日なんじゃないかな」
ナナのそこまで重要じゃなさそうな疑問に答えたその時、俺の頭が一気に動き始めた。
「なあナナ……即身仏未満Xの目的って確か『安楽死すること』だったよな」
「うん……多分、今のままで安楽死の条件を満たせない状態だから、こんなことをしたんだと思う」
「だよな……だから『即身仏未満X』なんて名乗っているんだろうし」
即身仏とは、人々を救うために生き埋めになって餓死することで仏になった人を指す言葉である。
タカセ区の安楽死もまた、自分が死ぬことで臓器移植が必要な人の命を救うという意味では即身仏に近いものがある。
安楽死ができない状態だからこそ、「即身仏未満」という名で自分を表しているのだろう。
「じゃあ、『X』は何なんだ」
カンコドリの爆弾にも表記されていた名前の「X」の部分。
単にカッコいいから付けたような気もするが、『即身仏未満』の後に付いている分、なにか意味があるような気がするのだ。
「ただのエックスと見せかけて、実はギリシャ数字で『10』を意味していたり……なんているのは、与太話かな」
数字の10。
約数になると2と5になる数。
2と、5……
「……いや、それだ。そして、わかったぞ……!」
「何かが、わかったんだね。」
「ナナ、X本人に聞こえないようにするためにも少し耳を貸してほしい」
「……うん!」
そう言いつつナナが俺の顔面5センチ先に耳を出す。
俺は唾をのみ、思い切って言う。
「即身仏未満Xの、中の人がわかった」
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