密室に男女二人編

密室に男女二人……何も起きないはずがなく

 11月6日は放課後までは平穏な日であった。


 授業の時間を寝て過ごし、休み時間と昼休みだけ起きていた。


 教師に起こされることも叱られることもなかった上に、昼食をナナと食べることができたのでストレスはほとんど溜まらないいい日であった。

 

 ……ただ、なんだかいつもよりナナが物理的距離を縮めていたような気がしたが。


 そして放課後の今、俺は希望部の部室にナナと共にいる。


 部室の机の上には、淡海先輩が残したであろうメモが置いてあった。


『今日の活動は第一体育倉庫の中で行います』


 俺たちは部室を出て外へと向かった。




 この花上高校にはカンコドリの他にもほぼ使われていないような場所がいくつかある。


 第一体育倉庫もまた、そういう場所のひとつである。


 無駄に多い生徒を収容すべく5年前に7階建ての西校舎が作られたことで、アクセスが悪くなった上に目立たなくなったことがそうなった原因らしい。


 7年前に扉を電子ロックにしていたらしいが、現在の使われ具合からして完全にムダ金であろう。


「あれ?中に誰もいないな」


 第一体育倉庫の中に入ったところ、誰もいなかった。


「……お手洗いに、行っているもかも」

 

「それはあるかもな。あ、でももしかしたら奥の部屋にいるのかも」


「奥の……部屋……」


 この第一体育倉庫には、体育用の機材が置かれている部屋の奥にもうひとつ部屋がある。


 そこはコンクリートの床と壁で作られており、この部屋とは違って機材は何一つおかれていない。


 何らかの活動を行うのなら、間違いなくそっちの部屋の方が適しているだろう。


「あっ……奥の部屋、ここと同じでロックが解除されている」


「じゃあ、そっちに入って待ってみるか」


 こうして、俺たちは奥の部屋へと足を進めていった。


 その数分後、アクシデントが起きた。


 

 

『ピッピピ』


 事の始まりは何気ない電子音であった。


「携帯の音……?」


「いや、この音は確か」


 俺はその音に聞き覚えがあった。


 俺の家の玄関扉は鍵穴と並行して第一体育倉庫と同じ会社の電子ロックを採用している。


 そして、電子ロックを使ってカギがしまったとき、さっきと同じ音が出るのだ。


 俺はとっさに扉をあけようとする。


『ガダガダッ、ガダガダッ』


 しかし、すでにロックされており出れなくなっていた。


「これはまずいのでは……?」


「うん……急いで外に助けを求めよう」


 俺はとっさにスマホを取り出し、部活の顧問である鎌田先生に電話をかけようとした。


『ここは電波が届きません。場所を変えて通話を試みることをオススメいたします』


 しかし、コンクリートの壁が邪魔をして携帯が通じなくなっていた。

 

「そ、そんな……」


 この部屋には人間が脱出できそうな窓もない。


 俺たちは完全に閉じ込められてしまった。


 『カチッ』


 そう思ったとき、第一体育倉庫の外の扉の電子ロックが開く音がした。


「助けてくれ!!助けてくれーー!!」


 俺は全力で叫び、助けを求めた。


 もし、自分だけが閉じ込められていたらここまで大きな声で助けを求めることはなかったであろう。


『ガラララ……ガンッ!』


「ここだーー!!助けてくれーー!!奥の部屋に閉じ込められてしまったんだーーー!!」 


 扉を開けた人が倉庫の中に入り、倉庫の扉を閉める音がする。


 着替えるような音が向こうから聞こえる中、俺はナナのために扉の向こうにいるであろう人に向かってSOSを発した。


 俺はこのまま自分が倉庫の中で死んでもいいと思っている。


 しかし、ナナが倉庫の中で死ぬ未来がどうしても許せなかったのだ。




 俺が助けを求め始めてから数分後、ついに扉の向こうの人から反応があった。


『それはできない。オマエたちはワタシの人質だ』


 扉の向こうから、編集で加工されたかのような声で絶望的な一言が発された。


『カチッ』


 その直後、奥の部屋と前の部屋を仕切る扉のロックが解除された。


 そして、医療用のパワードスーツに身を包んだ人間が扉を開けた。


 パワードスーツは全身を覆う形状をしており、中の人の顔どころか体型すら推測することができなかった。


『ワタシの名は、即身仏未満X。私立花上高校に爆破予告と爆弾を仕掛けた張本人でもある』


 パワードスーツを着た人間改め、即身仏未満Xは自己紹介をしながら俺たちがいる奥の部屋に足を踏み入れ始めた。

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