間違った優しさ
11月5日午後1時。
数十分前に起きた俺は、11日の試験に備えて勉強を始めた。
『いいんですかケイスケさん……もう少し生きていれば昨日のような幸せをもっとたくさん味わえるかもしれませんよ』
「これでいいんだヘイアン。俺の恋は報われないだろうし、もし報われても俺はナナを幸せにすることができない」
俺は恋心を自覚し、ナナと過ごす時間に幸せを感じた。
それは事実である。
でも、それを醜く生にしがみつく言い訳にはしたくなかった。
『なぜ告白する前から失敗すると考えているのでしょうか』
「俺には長所がなくて、短所がいっぱいある。それだけだ。ついでに、ナナを幸せにできるだけの将来性もない」
『そんなことないですよっ!私たちを作れるだけの技術力があれば、フリーランスとかでも』
「タイラ、それだけじゃダメなんだ。俺にはコミュ力と学力と心身の耐久力がない。ついでに先天性のハンディキャップ持ちだ」
俺にはわかる。
社会における人材の評価基準は加点方式ではなく、減点方式であることを。
そして、俺の加点ポイントは1つしかないのに対し、減点ポイントは無数にあるということを。
「短所だらけの彼氏なんて、嬉しくないだろうし……」
そうつぶやく俺の眼からは、なぜか涙があふれ出しそうになっていた。
もしも自分が人並みの人間に生まれていたなら、誰かに愛されることを諦めなくてもよかったのかもしれない。
「ううっ……こんなに苦しむことなら、生まれたくなかった……」
俺は自分の情けない泣き言を聞いて、また自分のことが嫌いになってしまった。
◆◇◆◇◆
『ナナさん、あの人まだ止まらないっぽいので、もっと攻めましょう。幸い、好意はすでに抱いているようです』
11月5日午後5時、ヘイアンはケイスケが数時間規模の昼寝を始めた隙にナナに電話をかけた。
「わかった。じゃあ今週中にでも告白を」
『それはまだいけません。いま告白すると相手のことを考えない間違った優しさのもと断られます』
「えっ……どうして……」
『ケイスケさんは、自分がナナさんの恋人になるとナナさんに不利益しかもたらさないと思っているみたいなんです……』
タイラが少し悲しそうな声色の合成音声で理由をのべる。
「そっか……」
『ひとまず、あのバカを現世に引き留めるためにもハイスクールIT大賞に応募する準備をしましょう』
「……わかった。じゃあ、クラウドサービスの方に審査に出す用のヘイアンちゃんたちのプログラムコードをアップロードしておいてね」
『了解しましたっ!では、電話を切ります!』
「ケイスケ、ボクはキミと一緒に幸せになりたいよ……ボクだけ幸せになっても、嬉しくなんかないよ……」
ナナは電話が切れた後、少し小さい声でつぶやいた。
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