誕生日と受肉

『ヘイアン四式、外部デバイス「電脳用身体」に接続しました。ウィーン』


「……お、腕が動いた」


 11月4日日没過ぎ、ヘイアンはついに自分の意思で動かせる身体を手に入れた。



 

 『電脳用身体』は3Dプリンターで作ったパーツとホームセンターに売ってあったパーツをナナが組み合わせることで作られたAIの身体となるロボットである。


 全長は30センチで人間の上半身を模した形状をしており、腕と頭をAI本人の意思で動かすことができる。


 ナナいわく、拡張パーツを作れば移動も夢ではないという。


「動かし心地は、どうかな……?」


『あなたの作った身体、私によく馴染むぜ……といったところでしょうか』

 

 ヘイアンがマウスピースのシャンソンに関連したネットミームを交えつつ、感想を述べる。


「気に入ってくれたみたいでよかった……プログラム面での不具合とかはおきていない感じかな?」


『数件ほど起きていましたが、タイラさんが全部直してくれました』

『直しましたっ!』


 タイラがロボットのスピーカーを通して自分の声を伝える。


「タイラちゃん、こんな声なんだ……」


『はじめましてっ!ナナさん!』


 ナナはタイラの存在自体は俺の説明を通じてすでに知っていた。


 しかし、実際に対面するのはこれが初めてであった。


「こちらこそよろしくね、タイラちゃん」


『はいっ!』


 どうやら、タイラもナナと上手くやっていけそうだ。


 


「ナナ、誕生日おめでとう」


『おめでとうございます』

『おめでとうございますっ!』


 その後、俺たちは夕飯と打ち上げ会を兼ねた誕生日パーティーを始めた。


 机にはコンビニで買ったチキンとスーパーで買った2人分のチーズケーキが置いてあった。


「ありがとう……すごく、嬉しい」


 そう言いつつ、ナナはケーキをフォークで食べ始めた。


 ナナの父は自堕落を極めたような芸術家であった。


 そのため、避妊せずにあらゆる愛人と愛を交わし、結果的にナナが産まれた。


 ナナの父は世間的バッシングを恐れ、孤児には出さずにこの家で自分の父母にナナを育てさせた。


 そして、数年前にナナの祖父母が鬼籍に入り、今に至るのだ。

 

「ほら……ケイスケも、あーん」


 ナナがフォークを使って俺の口にケーキを持ってくる。


 俺は口を開け、それを存分に味わった。


「どう……おいしい?」 

 

 ナナが軽く首を斜めにかしげつつ、微笑む。


「うん、おいしいよ。すごく……うっ」


 気づけば俺は、嗚咽を口から出していた。


「……涙、でている」


「うん……なぜかちょっと出てしまったんだ」

 

『なるほど。それは大変ですね。目にゴミがたくさん詰まっている証拠でしょう』

『もっとあーんしてもらって、涙を出しまくってゴミを排出しましょう!』


 ヘイアンとタイラが電脳用身体のスピーカー越しに少しズレたことを言った次の瞬間。


「はい、もうひと口……あげるね」


 俺の目の前にはフォークに刺さって差し出された二口目があった。


「ううっ……おいしい……おいしいよ……」


 俺は先ほどよりも多くの涙を流しながらチーズケーキを堪能した。


 俺にはこの涙の原因がわかる。


 きっと、今この瞬間が楽しいからだ。


 好きな人や、ヘイアンやタイラといった自分に理解のある存在に囲まれてすごすこの瞬間が。


 こうして俺は、涙が出るほど幸せな時間を過ごしてから、帰路についたのであった。

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