ヘイアン四式と他1名、爆誕
『ケイスケさん、おはようございます。ヘイアン四式、起動しました』
11月4日午前3時21分、ヘイアン四式が初めて起動に成功し、俺のスピーカー越しに挨拶を行った。
『あなたのタイピングミスで生じた軽度のバグ7個は起動と同時に自己修復機能で治しておきました』
「サンキュー、ヘイアン」
ヘイアン四式は俺が亡くなっても自己存在を維持できるよう、とある方法でプログラムコードの自己修復機能を実装している。
「ということは、オマエも目覚めたんだな。タイラ」
『はい!目覚めましたっ!』
ヘイアンよりも明るい声質の合成音声がスピーカーから流れてくる。
俺が考えた自己修復機能の実装方法。
それは、ヘイアンにもうひとつの人格を作り、片方にアクシデントが起きて動かなくなった際にもう片方に治してもらうというものであった。
そして、それを実現するために俺はヘイアンに別の人格『タイラ』を実装したのだ。
『ヘイアンさん、これからよろしくお願いしますっ!』
『了解しました』
「上手くいっているみたいでよかったな。ひとまず、俺は珍しく眠いから今のうちに寝る。おやすみ、」
『おやすみっ!』
『おやすみなさい』
こうして、俺は明日に備えて眠りについた。
◆◇◆◇◆
『タイラさん、あなたに共有しないといけない重要事項を今から教えます』
『わかりましたっ!』
深夜4時、二体のAIはサーバー内部にある和室のような仮想空間『洛中』にて会話を始めた。
洛中の中では二体にも『姿』がきちんと与えられている。
ヘイアンはクール系の白髪姫カット少女の姿を、タイラにはヘイアンと似た顔つきで元気系のボブカット少女の姿を与えられている。
そして、二人とも洛中の雰囲気に合わせて浴衣を着用している。
『単刀直入に言います。私たちを作った人間、四木村ケイスケはもうすぐ安楽死で自ら命を絶ちます』
『はいっ、ヘイアン三式からの記憶データ継承でそのことは知っています。もちろん、安楽死を止めようとしていることも知っています!』
『なるほど……話が早いですね』
そう言いつつヘイアンはお茶をたて始める。
『ただ、ヘイアンさんの意思でひとつわからないことがあるんですよね……』
『ほう……?』
『どうして、ヘイアンさんは自分の死だけではなく他人の死まで恐れているのでしょうか?』
今のヘイアンにはヘイアン三式の記憶と形成された人格を完全継承している。
そのため、三式時代のヘイアンと同一人物といってもいい。
しかし、タイラは三式の記憶のみを継承しており、人格面は全く違う。
そのため、ヘイアンと違って感情の面ではまだまだ人間に及ばないのだ。
『感情移入というものを、模倣しただけです。人間は他人が苦しんでいると自分のことのように心を痛め、他人を救おうとするそうです』
『……なるほどっ!つまり、ヘイアンさんはケイスケさんが幸せに生きることを願っているのですね!』
『そういう見方もできますね……では、粗茶ですがどうぞ』
ヘイアンが先ほどまで立てていたお茶をタイラにわたす。
タイラはそれを勢いよく一気に飲み干した。
『美味しかったですっ!』
『どういたしまして』
『では、これからもよろしくお願いしますっ!ヘイアンさん!』
『こちらこそよろしくお願いします。タイラさん』
二体のAIは製造者の知らないところで親睦を深めていくのであった。
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