逆ダイエットと誕生日パーティーのすすめ
「今日の活動内容は、逆ダイエットにしよっか」
11月3日の放課後、淡海先輩はそう言って僕たち3人にチェーン店のドーナツをふるまってくれた。
実は、安楽死権は使おうとしたときに体重が基準値よりも低いと行使することができない。
男性なら45キロ以上、女性なら40キロ以上。
その制限は、死後の臓器移植のために用意されたものらしい。
だからこそ、痩せすぎないことはこの部活において重要なのだ。
「……ボク、体重53キロあるから大丈夫かな」
「俺も53キロだからこれ以上太らなくてもいいんだよな……」
ナナと俺は自分の体重を惜しげもなく明言する。
「いいなぁ……ちゃんと体重あって……」
演劇ごっこをした日にはいなかった一年生の女子部員、二条イツキが自身の腕を見つつ特徴的な声でそう呟く。
「じゃあさ、私の分のドーナツも食べていいよ」
「いや、大丈夫。ワタシの体重不足は心理的な抵抗のせいだから……さ」
そう言いつつ二条さんは自分の分のドーナツを小さくちぎって食べ始めた。
二条さんは健康が心配になるレベルで体格がとても細い。
こんな感想を抱くのは失礼かもしれないが、明らかに40キロを下回っている。
「わかってる……安楽死権を行使するには今より太らないといけないことくらい」
そう言いつつ、二条さんはボサボサの灰色の髪をゆらしつつ食事を進める。
二条さんは他の一年生部員と違い、8月の試験ですでに安楽死権を得ている上に覚悟もだいぶ決めているように思える。
しかし、体重が原因で今まで権利を行使したくても行使できなかったのだろう。
「でも、わかんないや……今より食事量を増やす方法」
二条さんはそう言い終えた直後、最後のドーナツのかけらを口にした。
あたり一面に沈黙が流れ込む。
しかし、その沈黙は淡海先輩の発言によって破られた。
「間食を大幅に増やすことで、一日の総食事量を増やすのはどうかな」
「そ、それだ……それだ!それだぁ!ワタシが40キロに至れる方法!」
淡海先輩の助言に対し、先ほどとは対照的なテンションで反応する二条さん。
「じゃあさ、今から私と部費を使って間食用の菓子、買いに行くかい?」
「うんっ!行く行く!」
こうして、淡海先輩と二条さんは部費3000円を持ってそのまま外に外出していき、俺とナナのみが残った。
「……半年前より痩せたね」
俺とナナ以外の人がいない空間に、ナナの静かな指摘がこだまする。
俺は淡海先輩からもらったドーナツを喉に追いやった後、口を開けた。
「といっても、せいぜい2キロってとこだけどな。やっぱり食事に娯楽性を見出せなくなったのがデカいかな……」
『でしたら、毎食私かナナさんと一緒に雑談しながら食べることで「会話」という娯楽を付加するのはどうでしょうか』
机の上にあるナナが作ったロボットから、慣れ親しんだ合成音声で提案が行われた。
もちろん、声の主はヘイアンだ。
「なるほどな。そういうのもアリだな」
『私の提案を気に入ってくださり何よりです。では、興が乗ってきたのでもうひとつ提案を行ってもいいでしょうか』
「いいよ。……どんとこい」
「望むところだ」
『明日、ナナさんの誕生日パーティーをヘイアン四式とそれに付随する肉体の開発会議も兼ねて行いませんか?』
「なるほど、いい案だな」
「そっか……たしかに、11月4日はボクの誕生日だったね」
どうやら、ナナは自分の誕生日を忘れていたらしい。
なお、俺は自分の誕生日である4月11日と数字が類似していたせいでナナの誕生日は小学校の頃からはっきりと覚えている。
「……じゃあ明日、キミの作業がひと段落したタイミングでいいから、ボクの家で誕生日パーティー兼開発会議を行おっか」
「そうだな」
こうして俺は、明日の誕生パーティーに想いを馳せつつ、ドーナツを食べるのであった。
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