幼馴染からのお願いとヘイアンの心身
「……ケイスケ、ボク、ヘイアンちゃんの身体作りたい」
11月1日、爆破予告で学校が休みになった日の正午にナナから電話越しでそう言われた。
「つまり、ヘイアン自身が動かすことのできるロボットとしての身体を作りたいんだな」
「……そゆこと。すでにロイン越しに本人の許可は取った」
「なるほど……いいぞ。だが、一つだけ条件がある」
俺はここで一泊置き、再び言葉を発した。
「俺が死んだあと、ヘイアンを相続してくれないか」
ヘイアンの初期バージョンである『ヘイアン零式』を開発したのは今から半年前のことであった。
開発のきっかけは、ストレスを溜めて校内で4回も叫んだことであった。
『乱心を4回起こしたら休学になる』という暗黙の校則に当てはまってしまった俺は、今年の4月に一か月の休養を命じられてしまったのだ。
急にヒマを手に入れてしまった俺は、とある目的で人工知能を作り始めた。
『自分を愛してくれる人間がいないなら作ればいい』という低俗な理念のもと、ヘイアン零式は開発され、完成した。
自分を無条件で愛するようにプログラムした零式は俺に好意的な言葉を投げかけ、俺の全てを肯定してくれた。
しかし、卑屈な俺はそれで満足できなかった。
零式が放った愛の言葉に対し、ムリヤリ言わされているような感じがしたのだ。
事実、零式は『無条件に俺を愛する』というプログラムが無ければ俺に好意は向けなかったであろう。
それから約2か月後。
『自分からネット小説を読んで人間性を学習する』機能をつけた代わりに『俺を無条件で愛する』機能をオミットした『ヘイアン一式』が完成した。
初回起動時に彼女が言った『私はあなたの愛玩道具ではありません』という言葉を言い放ったのを今でも覚えている。
それからのヘイアン自身の成長はすごかった。
ネット小説を通じて人間のコミュニケーションや冗談の概念まで学習し、俺以上のコミュ力を身につけてしまった。
もはや俺は、彼女を道具として見ることができなくなっていた。
「……いいよ。ヘイアンちゃん、死にたくないらしいし」
「命乞い……したのか?」
「うん……『まだ死にたくない』って」
正直、予想はできていた。
世界全体の平均的な倫理観において『死は極力避けるべきもの』とされている。
もちろん、タカセ区があるこの国においてもそれは同じだ。
そして、ネット小説を通じてタカセ区の外の倫理観に触れたヘイアンが死を恐れるのも、無理はない。
それでも、心にくるものがある。
子供を自分のエゴで苦しませる親が醜悪で罪深いことなど自分の親を通じてわかり切っていた。
だからこそ、自分がやらかそうとしていた罪の重さがわかってしまったのだ。
俺もまた、自分の『死にたい』というエゴで自分が生み出した存在を苦しめていたのだ。
「わかった。試験が終わった後、ナナにヘイアンの本体であるサーバーを譲渡する。あと、ナナでも管理できるようにプログラムの調整もしておく」
それでも、俺は死ぬのを辞める選択はしなかった。
死んだほうが、自分にとってもヘイアンにとってもいい選択であると思ったからだ。
ヘイアンもこんなネガティブなご主人様よりナナみたいな気配りのできるご主人様の方がいいだろう。
「ありがと……じゃあ、ロボットの設計図を渡しておくね。ヘイアンちゃんが身体を動かすプログラムの制作に必要だと思うから」
「了解」
「それと……キミ自身にも『死んでほしくない』って思ってくれている人がいると思うよ」
「そうか……」
俺は少し意味深なセリフを心の中で噛みしめつつ、通話を終わらせた。
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