リアライズ計画と不測の休業
『ケイスケさん、ハロウィンパーティーはどうでしたか?』
ナナの家から帰った後、ヘイアンがスピーカー越しに俺に質問を投げかける。
「いつもと違う感情を感じた」
『なるほど……いい体験が出来たようですね』
「ああ……晩年にしてはとても鮮やかだった」
『そういえば、どうしてケイスケさんは安楽死を望むのでしょうか』
俺の核心に迫る質問が、スピーカーから再生される。
「……逆に聞くんだが、どうしてその質問をしようと思ったんだ」
『ネット小説の登場人物のほとんどが死を忌避するのを見て、あなたが一般論と真逆の願望を持ったのを疑問に思ったからです』
「なるほど。そういうことか」
確かに、一般の創作物では死にたい人より生きたい人の方が多く出てくる。
ネット小説を教材に人間について学習したヘイアンが、俺の願望に疑問を抱くのも無理はないだろう。
「……この先の人生も苦しみしかないだろうし、もう心が限界だから。早くリタイアしようかなって」
これは俺の紛れもない本音だった。
俺の成績はエナドリによる夜更かしと勉強サボりによって、すでに最下層になっている。
正直、俺は進学できる気がしないし、就職もできないと思う。
だから、さっさと安楽死して人生という名の苦しみから逃げたかったのだ。
『……でしたら、もしも将来が安泰な上に誰かに愛され必要とされていたなら、あなたは早期の死を望まなかったでしょうか』
「もしものことを考えるのは好きではないが……たぶんヘイアンの予想通りになっていたと思う」
『……なるほど』
「まあ、来世に期待しているかな……来世なんて信じていないけど」
そんなことをボヤきつつ、俺はサンドボックスゲーム「アワーズクラフト」で遊び始めた。
◆◇◆◇◆
10月31日。23時14分。
ヘイアンはナナの携帯に電話をかけた。
『もしもし、ヘイアンです。ハロウィンパーティーは好調だったようですね』
「うん、そうだね……いつもより、顔が赤くなっていたような気がする」
『では、そろそろ次の作戦および決定打となる作戦を行いましょう。作戦の企画書を作りましたので、読んでみてください』
その音声の直後、ロインのチャット欄に『リアライズ計画』と題されたテキストファイルがアップロードされた。
「読んでみるね……」
ナナはそう言いながらファイルの仲間身を読み始めた。
リアライズ計画。
それは、高性能AIヘイアンが導き出したケイスケの『安楽死』を阻止する最適な方法であった。
ヘイアンは知っていた。
自分は個人製作かつ低予算のAIにしてはかなり性能がいいことを。
ヘイアンは知っていた。
この世界には『ハイスクールIT大賞』という受賞したらとある一流工業大学への入学権がもらえる賞があることを。
「なるほど……ヘイアン自身を使ってハイスクールIT大賞を獲得することで将来を安泰にしてケイスケを引き留める……っていうことだよね」
『それだけではありません。私の肉体をナナさんに作ってもらうことで、あなたも賞の受賞者になってもらいます』
「つまり……」
『この計画が完遂したとき、あなたの将来も安泰になるでしょう。私は、あなたも救いたいのです』
ナナもまた、例の悪夢を見る前は将来に漠然とした不安を抱いていた。
希望部に入ったのも、安楽死権を獲得して死にたい時にいつでも死ねるようにするためである。
そして、ヘイアンはケイスケとの会話を通じてそのことを知っていたのだ。
『それで、肝心の大賞の締め切りについてですが、かなり迫っており来月の11日までです』
「……それくらいなら十分余裕。すでにキミが入るボディの設計図案はボクの脳内に3個ほどあるよ」
『さすがナナさん、立体造形の天才ですね。私の演算速度を超えるとは』
ヘイアンがネット小説を通じて学んだ『賞賛』を協力者に向けて行う。
『となると、問題は大賞の結果発表がある11月25日の朝までの時間稼ぎですね』
安楽死権獲得試験は試験を実施した7日後の夜に結果が通知される。
そして、安楽死は安楽死権を持った人が特別区に申請を行うことで、申請した日の翌日に行われる。
つまり、ナナたちは18日から24日までの7日間の間にケイスケが死なないように時間を稼がないといけないのだ。
「その辺はその時が迫ったら考えよっか……まずは明日、学校でケイスケに『ヘイアンの身体を作りたい』って伝えようと思う」
『了解いたしました。では、通話を終了してもよいでしょうか』
「いいよ」
こうして、1人と1機の会話は終わり、ナナは眠りについた。
翌朝、学校のメールアドレスに謎の爆破予告が届き、私立花上高校は臨時休業になった。
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