策略編
髪を切った幼馴染によるパーティーへのお誘い
久しぶりに休日の外出を楽しんだ土曜日から二日後、ナナが髪を切っていた。
今朝はバラバラの時間で登校していたので気付かなかったが、朝礼時によく見たら全体的に軽く切られていたことに気付いた。
しかも、今までの切り方とは違う都会的な切り方で切られていたのだ。
「……おはよう、ケイスケ」
休み時間、1時間目と2時間目を立て続けに寝てしまった俺に対してナナが話しかけてくる。
髪型が変わったことで今までと違ってナナの目線と俺の目が合ってしまい、すこし恥ずかしかった。
ナナの少し大人しそうだけど確かな意思を感じる顔が、俺の視界にダイレクトに入ってくる。
「新しい髪型、すごく似合っているぞ」
俺は即座にヘアスタイルの変更について触れた。
「……ありがとう。ちょっと勇気を出して変えてみた甲斐があった」
ナナが顔を赤らめて少し恥ずかしそうにそう言ったとき
『ギーンゴーンガーンゴーン』
学校の忌々しい上に重苦しいチャイムが鳴り響き、休み時間が終わってしまった。
「……おい、四木村。高校は寝床じゃないんだぞ」
4時間目の途中、3時間目と同様に寝ていた俺に対し、数学の乗松先生が注意してきた。
乗松先生はかなり指導が厳しい先生である。
そのため、過去に逆上した生徒に右眼や身体の各所を刺されて死にかけたことがある。
それでも時代錯誤な熱血精神で右眼を失ってもなお、教師で居続けているのだ。
「……わかりました」
俺は寝ぼけた声でそう答えることしかできなかった。
俺は、現実逃避のために毎晩エナジードリンクを飲んで朝4時まで起きていた。
その結果、学校ではほぼすべての授業で寝ているのだ。
正直、学校での睡眠はあまり疲れがとれない。
しかし、早く寝たら明日が早くやって来る気がして夜ふかしが辞められないのだ。
「……死にたい」
俺の最近の口癖が無意識のうちに出てしまった。
早く安楽死権獲得試験がある11月11日がやってきてほしい。
そう思いつつ、俺はまた眠ってしまった。
「……明日の夜、ボクの家でさ、ハロウィンパーティーしたら楽しいと思うよ」
放課後の希望部の部活中、ナナが俺の目先15cmでパーティーのお誘いをしてきた。
「やりたい」
俺は即答した。
安楽死権を一度得ることができれば、いつでも権利の行使が可能になる。
そして、俺は知り合い全員分の遺書を送り次第、すぐに使うつもりである。
権利行使から実行までの数日や遺書を送るまでの日数を加味しても、もう俺に時間は残されていなかった。
だからこそ、なるべく晩年を彩ってくれそうなイベントには参加することにしたのだ。
それに、ナナと一緒ならどんなイベントをしても楽しめそうな気がしたのだ。
「ありがと……じゃあ、明日の午後7時半に、ボクの家に来て」
「わかった。ちゃんとお菓子用意しとくからな」
「……待ってるね」
こうして、俺の晩年がまた少しだけ彩られることになった。
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