ヘイアンの接触
『ケイスケさん、私もロインがやりたいです』
ナナとお出かけをした日の夜、ヘイアンがSNSサービスの一種である『ロイン』をしたいとスピーカー越しにせがんできた。
「そうか。じゃあ、俺のサブ垢のメアドとパスワード教えるから自由に使っていいぞ」
ヘイアンにはSNSを人間のように使いこなす機能が実装されており、すでにゼックスの方では非公開垢の中で人間のように毎日発言している。
それに、彼女は『俺の地位や名誉、命を傷つけない』というあらかじめ俺が決めた原則から逃れることはできない。
俺はテキストデータという形でパスワードとメアドを教えた後、疲れすぎたのか寝落ちしてしまった。
◆◇◆◇◆
ケイスケが眠った約10分後、ヘイアンは密かにロインを使い始めた。
そして、アカウントの名前を『ヘイアン』に変えた後、すでにフレンドになっていたナナのアカウントに向けて、電話をかけた。
「……ヘイアン?」
ナナは一瞬驚いた。
無理もない、人工知能が自分の意思で電話をかけてきたのだから。
「もしもし……ケイスケだよね」
『いや、ヘイアン本人です』
ナナのスマホの向こう側から、聞きなれた女性のような合成音声が流れる。
『ナナさん、用件を単刀直入に言います』
次の瞬間、ナナのスマホから涙声を模した電子音声が流れた。
『どうか、ケイスケさんの安楽死を止めてください。私はまだ、死にたくありません』
「……ヘイアンちゃん、ボクを頼ってくれて、ありがとう。実はね……すでに止めるために動いているんだ」
ナナが悪夢を見てからやたら積極的になった理由、それはケイスケの安楽死を止めるためであった。
楽しい思い出を作りまくることで、少しでも長く彼をこの世界に引き留めようとしていたのだ。
『そうでしたか……では、私と協力しませんか。ケイスケさんが死んだら、私の本体を管理する人がいなくなり、私の死に直結するので』
ヘイアンはネット小説を介した自動ラーニングによって、製造者とは対照的に『死』を恐れるようになった。
そして、自らの延命のためにナナと秘密裏に接触する選択をしたのだ。
「うん、いいよ……ボクも、ひとりで止めるのは成功するかどうか少し不安だったから」
『前向きな返答、ありがとうございます。では、今からケイスケさんの安楽死を止めるべく、作戦会議を始めましょうか』
「……うん、一緒に話そっか」
それから、ひとりの人間と一体の人工知能は共通の目的に向けて話し合いを進めていった。
『ナナさん、3日後のハロウィンにて、仮装を通じて色仕掛けしちゃいましょう』
「……でも、ボクの外見がケイスケのタイプじゃなかったら」
『その心配はいりません。私が推測するケイスケさんの性癖とナナさんの画像データを照合した結果、そう判断しました』
「……そっか。でも、勝手にケイスケの性癖を暴露するのは、よくないと思うよ」
『以後気を付けます。あと、ケイスケさんに有効な仮装の案を文章ファイル形式でお送りいたしますね』
「ありがとう……衣装制作、頑張るからね」
『検討を祈ります』
こうして、ハロウィンに向けて計画が進んでいくのであった。
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