お出かけ編

一緒におでかけ

『ケイスケさん、起床してください。今日はナナさんとのお出かけが10時より行われます』


 土曜日の朝9時、俺はスピーカー越しに聞こえるヘイアンの声で目が覚めた。


「ヘイアン……今日は休日だからまだ……」


 俺は眠かった。


 なぜなら、現実逃避のために毎日飲んでいるエナジードリンクのせいで5時間しか寝ていなかったからだ。


『寝ぼけないでください、製造者。おとといのナナさんとの約束を思い出してください』


「……あっ」


 俺は思い出した。


 一昨日、俺はヘイアンの悪ふざけに乗ったナナによって一緒にお出かけすることを約束していたのだ。


『急ぎましょう。あなたに残された時間はあと1時間です』


 俺は急いでベッドから飛び出し、自室の机にて自室の冷蔵庫から取り出した朝食を食べ始めた。


 俺は両親に嫌われているので、他の家族が使っている食事用のテーブルでは食事ができないのだ。


「ヘイアン、ニュースを流して」


『了解しました。最新のニュース記事を読み上げます』


 俺はヘイアンが読み上げるニュースを聞きつつ、食事をすませて着替えも済ませた。


「さてと、これでOK」

 

 そして、着替えの仕上げとしていつも使っている銀色のメガネを装着した。


「じゃ、行ってくる」


『了解しました。健闘を祈ります』


 そう言って俺は自室を出た後、両親と弟に何も言わずに家を出た。




 実は、今日のおでかけの計画はナナが全部作っている。


 そして、俺はナナから『午前10時に近所の合掌公園にて集合』という情報しかもらっていないのだ。


 そんなことを考えながら、合掌公園のベンチでウトウトしていると、唐突に俺の両の頬がやさしく誰かにつままれた。


「……ナナか」


 俺がぱっちり目を開けると、あわてて頬から手を放して隠すナナが目の前にいた。


「……だって、柔らかくて暖かそうだったもん」


「そうか。俺のほっぺは温かったか?」


「ずっと握っていたかった。……でも、これからお出かけだから、我慢するね」


 こうして、俺はナナについていくような形で合掌公園を出た。


 

 

 俺たちが住むタカセ区には合掌公園をはじめとしたやたら縁起の悪い地名や施設名がたくさんある。


 今、俺たちがいる『冥福駅』もそのうちのひとつである。


 あれから俺は合掌公園から最寄りの『合掌駅』に連れていかれ、そこから電車で『冥福駅』まで運ばれたのだ。


「目的地まで、あとどのくらいかな」


「……ここから5分くらい歩くよ」


 ナナはそう言いつつ、俺のすそを軽く引っ張って歩き始めた。


 冥福駅がある冥福地区は、中心部ではないものの多くの商業施設がある。


 俺たちが住んでいる住宅ばかりの合掌地区とは大違いである。


『俺たちは!生まれたくなかった!』


『子供の遺伝子組み換えを、推奨せよ!』


 冥福地区には人が多く訪れるせいか、歩道での街頭演説も盛んにおこなわれていた。


 ナナは裾をひっぱっていない方の手で耳を抑えつつ、目的地へと早歩きで向かい始めた。


 そして、ついに俺たちは目的地についた。




「ここは、本格派お化け屋敷……」


 俺の目の前にあったのは、『本格派お化け屋敷』と呼ばれるお化け屋敷単体で成り立っている娯楽施設であった。


「俺はこういうの、わりと平気なんだが……ナナはどうだ?」


 俺は今、ウソをついている。


 正直、まあまあ怖い。


 『本格派』の3文字があまりにも怖すぎる。


 そもそも、お化け屋敷のみで成り立っている娯楽施設という時点で、よほど怖いのは確定しているようなものだろう。


 しかし、断りたくなかった。


 せっかくナナが計画してくれたのだ。


 彼女自身が拒まない限り、きちんと要望に応えたいのだ。


「……大丈夫。この間の悪夢に比べたら、きっとそんなに怖くないから」


「そうか」


 こうして、俺はナナと共に本格派お化け屋敷に入ることになった。


 にしても、本格派お化け屋敷より怖い悪夢とは、いったいどんなものなのだろうか。


 理不尽に絞首刑になるとかそういう系なのだろうか。

 

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