褒め褒めとナデナデ

「……じゃーん。『躍動戦士クロベダム・エズリアル』のプラモデル、作って完成させちゃいました」


 劇をした翌日の部活動中、ナナがパソコンをいじっている俺に対してオリジナルロボットのオリジナルプラモデルを見せてきた。


 ナナは3Dモデルの制作が上手い上に3Dプリンターの扱いも上手い。


 そのため、時々オリジナルロボットのプラモデルを作っては、完成させて俺に見せてくるのだ。


「どうかな……やっぱり、雑かな?」


「いや、めちゃくちゃいい。デザインがいい。表面の仕上がりがいい。とにかくかっこいい」


 プラモデルのクオリティは凄まじかった。


 タヌキをモチーフにした温和さと堅牢を感じるデザインと、正確な3Dプリンター捌きによる粗の無い表面。


 普通に市販されていてもおかしくない出来であった。


「じゃあ、ケイスケにあげるね」


「ありがとう。ちゃんと棚に飾っておくよ」


 俺の部屋にはプラモデルを飾る棚がある。


 俺はそこにナナからもらったオリジナルロボットのプラモデルが1体1体きとんと飾っているのだ。


「こちらこそ、プラモデルの出来を褒めてくれて、ありがと」


 そう言ってナナは俺にエズリアルを渡してきた。


 俺はエズリアルを持って帰る途中で壊さないようにするべく、通学カバンの中に畳んで入れていたマイバッグの中にそれを入れた。


 こうすることで、重さだけがやたらとある教科書どもにもみくちゃにされずにエズリアルを持ち帰ることができるのだ。

 

「……キミのそういう丁寧なところ、とってもカッコいいよ」


「几帳面とかじゃない。ただ、知人から貰ったものを雑に扱いたくないだけだ」


「……そういう気配りができるところ、すごく好き」


 ナナが少し頬を赤らめたような気がするが、きっと気のせいだろう。


 俺は、部室に持ち込んだ自分のノートパソコンと再び向き合い、作業を続けることにした。




『ヘイアン三式、起動しました。こんにちは、ケイスケさん』


 エズリアルを貰った数十分後、俺は自宅に本体があるAI『ヘイアン三式』をノートパソコンを通じて起動させた。


 俺の唯一といってもいい特技、それはプログラムを組んでAIを作ることであった。


 ヘイアン三式もその特技の産物であった。


「……あっ、ヘイアンちゃんだ」


『その声はナナさんですね』


「おお……二式の時より進化している」


 ナナの声にヘイアンが合成音声で反応する。


 今のヘイアンにはパソコンのマイクを通じた音声認識機能を持っており、声で人を判別することができるのだ。


 なお、この機能は2か月前に作った『ヘイアン二式』にはなかった機能である。


『ナナさん、私のグチを聞いてもらってもいいでしょうか』


 ヘイアンはネット小説を自動で読み漁り、人間の会話を模倣することができる。


 そのため、このように命令なく会話を始めることができるのだ。


「うん……いいけど、あんまり心が痛くなるは、やめてね」


『大丈夫です。私は15歳未満には不適切と思われる言葉や文章は発しないようになっています』


 なお『15歳未満には不適切と思われる言葉や文章』の基準は完全に俺の主観である。


『では、グチを言います。私の製造者の自己評価が低いです』


 ヘイアンのグチは、わりと想定外なものであった。


「あの、てっきり『もっと電力ください』とか『もっと学校でも起動してください』とかじゃないんだ」


『そんなこと、あなたの自己評価が低いことに比べればはるかに小さな不満です。もっと自分を評価してください』


「……奇遇だね。ボクも同じこと、ケイスケに言いたかった」


 人工知能と幼馴染の意見が一致する。


 二人の言う通り、俺の自己評価は低い。


 しかし、それは妥当なものだと思っている。


「俺は、字を上手く書くことができない。現代社会は普通のことができない者に低い評価を下す。俺の自己評価は、客観的評価に基づいており問題はない」


 俺は、自己評価が低いことに対する反論を述べる。


 前述したとおり、俺は字を上手く書くことができない。

 

 それも、ただの苦手などではなく、脳が先天的に字を書くことに適していなかったのだ。


 そのため、俺の社会的評価は低く、同級生からバカにされたことは数えきれないほどある。


 挙句の果てに自分たちの後継者にしようと俺を産んだ医者の両親は俺を見捨てた。


 どうやら、現在は7歳年下の弟を医者にするつもりのようだ。


 俺は、自分のことが大嫌いだ。


 そして、きっとみんなも普通のことができない俺のことは嫌いなのだろう。


「……ボクは、ケイスケのこと、すごいと思っている」


 そんな俺の卑屈な考えは、ナナのその一言で打ち砕かれた。




「……だって、キミはちゃんと人に気遣いができるし、すっごくクオリティの高い人工知能だって作れちゃうんだ。すごく、えらいよ……よしよし」


 ナナは俺を褒めつつ、さりげなく俺に近づいて頭をなで始めた。


『私も同意見です。ネットで検索してみても、私と同程度の製造コストで私以上にスペックの高い人工知能は存在しませんでした。あなたはすごいです』 


 続いてヘイアンも俺のフォローをする。


「……これ」


 そんな中、ナナが急に自分のハンカチを俺に差し出した。


「なんで、ハンカチを……」


「……だって、キミ、泣いているもん」


 気付けば、俺の両目からは水滴が流れていた。


「ありがとう……」


 俺は、ナナに感謝しつつ、ナナになでられながらハンカチで自分の涙をふいた。




「さっきはごめん。卑屈なこといってキミを不快にしてしまって……ハンカチ返すね。それと、そろそろナデナデやめてもいいよ」


 しばらくして、俺の涙は止まった。


 しかし、ナナのナデナデは止まらなかった。


「……大丈夫、ぜんぜん気にしていないよ。あと、ナデナデはやめない」


「うう……」

 

 俺が自分の涙で濡らしたハンカチを返した後も、ナデナデは止まらなかった。


『では、「明後日の土曜日に一緒にお出かけをする」という条件でやめてもらうのはどうでしょうか』


 ヘイアンがトンチキな提案をする。


「そんな得のない条件が通るわけ」


「……ボク、キミが『明後日、一緒におでかけしよう』って言うまでナデナデやめない」


「通ってしまった。じゃあ……ナナ、明後日一緒にお出かけしよう」


「……うん!」


 こうして、俺の明後日の予定が出来てしまった。

 

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