第4話 宿泊者

 冒険者として登録してから、およそ半月が経過した。


「ノモサさん、お疲れ様です。薬草採取の依頼の報告ですね?……はい、確認しました。こちら、報酬の銀貨十枚です。そして、おめでとうございます。これで、鉄級冒険者に昇格ですね!」

「ありがとうございます、アネッサさん」

 夕方、薬草採取を終え、冒険者ギルドに戻ってきたところだ。晴れて、鉄級冒険者に上がることが出来た。

 薬草の採取の依頼は、村でサーラばあさんからある程度薬草について教えてもらっていたし、討伐依頼に関しても、村で討伐していた時と大して変わらない魔物ばかりだったので、楽にこなすことが出来た。

「では、これからも頑張ってくださいね!」

「ありがとうございます」


 今日は、気分がいい。

 ルイミーさんよりは弱くとも、自分の強さをきちんと認めてもらえた気がする。

 冒険者ギルドを出ると、ノモサは中央広場の方に足を運んだ。まだ日が沈むまで少し時間がある。どこかお店でも覗いてみようか。露店もいくつか出ていたし。

 露店で串焼きが売っていたので、一つ買って、食べながら歩く。


「と言うか、お祭りの日でもないのに露店が出てるなんて。人も多いし、本当に別世界だな」


 その後、防具の店や雑貨の店も見て、足りないものを購入した後、白兎の宿に戻って来た。

 宿についてだが、結局、ご飯は美味しいし、朝、庭で鍛錬をさせてもらってるし、安いし、不満は無かったので、その後もずっと利用している。


「あ、ノモサお兄さん、おかえりー!」


 宿に入ると、シャオ君がカウンターのところに座っていた。


「シャオ君、今日もお手伝い?偉いね」

「ふふん、すごいでしょ!……あれ、なんか良いことでもあったの?」

「うん、実は、鉄級に上がったんだ」

「すげー!今日はお祝いだな!ママとパパに伝えてくる!」

「いや、ちょっと……」


 シャオ君は、奥に駆けだしていった。

 いや、そこまですごくないんだけど……と言うか、今お客さんが来たらどうするの?


 と考えていると、宿の扉が開き、誰かが入ってきた。

 灰色の長い髪をした少女で、年齢は15、16歳位だろうか。薄汚れているが、顔立ちは整っている。荷物とか持っていないし、この町の人だろうか?

 きょろきょろと見回した後、こちらに歩いてきた。


「……あ、あの、これで、泊まれますか?」


 ぼそぼそとつぶやきながら少女が差し出したのは、銀貨一枚。


「あ……えっと……」

「今は、これだけしか持ち合わせが無くて……」

「俺はこの宿に泊まっているだけで、この宿の従業員じゃないんだ」

「え?……あ、す、すいません!」


 本当にお客さんが来るとは。でも、もうすぐシャオ君も戻って来るだろう。それまで、話をしてみることにする。


「えっと……君は、この町の人?」

 少女は首を横に振る。

「……あ、名前は?」

「名前?」

「あ、俺は、ノモサ。よろしく」

「……エヌ」

「エヌ……さん?」


 少女……エヌは頷いた。


「えっと……冒険者、だったりする?」

「冒険者……って、何ですか?」

「え?」


 冒険者を知らない?村暮らしの俺でも知ってたのに。


「冒険者って言うのは……」


 説明をしようとしたところで、宿の女将さんとシャオ君が出てきた。


「聞きましたよ、鉄級に上がったんですね。この子も喜んでるし、今日は、お祝いを……って、お客様?失礼しました、私がこの宿の女将です、宿泊ですか?」

「あの……これで、泊めてもらえないでしょうか……」


 エヌは、銀貨を差し出した。

「んー……まあ、今日はめでたいこともあったし、良いでしょう。今日だけですからね?折角ですし、夕食と朝食もつけましょう。さあ、シャオ、案内してあげて。確か、右奥の部屋が空いていたからね」

「……あ、ありがとうございます!」

「こ、こちらです!」


 シャオ君と、エヌが二階に上がっていった。


「いいんですか?」

「本当は、こちらも商売でやってるからね。駄目なんだけど……明日はきちんと稼いで、泊まりに来てくれることを期待しましょう。ノモサ君も、荷物を置いてきたらどうでしょうか?今主人が料理を作っているので」

「あ、はい、そうします」


 その後、荷物を置いた後、整理してから、食堂に向かう。

 入ると、エヌが端の席に座っていた。向かいの席に座る。

「ここ、良いかな?」

「あ、はい……えっと……」

「ノモサです。ありがとう、じゃあ、失礼します」

「ん……はい」


 暇なので、話しかけてみる。


「そういえば、エヌさんは旅をしてたりするの?この町に住んでるわけじゃないんだよね?」

「あ……はい……あ、この町には来たばかりです」

「そうなんだね。町の事だったら、この宿の女将さんに聞いたら教えてくれると思うよ」

「あ、あの……」

「何?」


 少し沈黙を挟んでから、話し始める。


「お金を、稼ぐのにいい方法を何か知ってますか……?」

「一番簡単なのは、冒険者になる、とかかな」

「あ、いえ、そもそも、冒険者って何か知らなくて……教えてもらえませんか?」

「俺も、まだまだ新人だけどね。じゃあ、軽く説明すると……」


 冒険者に関する説明をした。全て受け売りだけど。


「なるほど。明日にでも、登録します。お金を稼がないといけないので」


 と言うか、旅荷物を何も持っていないところから見ても、どう見てもただの旅人じゃないんだけど……事情を聞くのも悪いし、聞かないでおこう。

 あれ?今何もお金を持ってないんだよな?登録の時に……


「あ、そういえば、登録料が銀貨一枚必要だけど……」

「え?そうなんですか?……あ、あの……後で必ず返すので……」

「いいよ、銀貨一枚ね……と言うか、依頼を受けるとしても、服とか必要な道具とか、色々かかるだろうし、もう少し貸そうか?」

「あ、いえ、そんな、それは大丈夫です!」

「……そっか。あ、エヌさんは、魔術とか使えるの?」

「……はい、多少は」

「すごいな。俺は使えないから」

「簡単な属性魔術であれば、練習すれば、使えるようになります」

「なるほど。今度、誰かに教えてもらおうかな」


 魔術が得意な人かー。俺の知っている人だと、ルイミーさんとエヌさんぐらいなんだよな。詳しい人だったら、受付嬢のアネッサさんもいるけど。後は、冒険者の先輩……って言っても、話したことも無いけど。


「……あ、じゃ、じゃあ……」

「ノモサお兄さん!そっちの人も!料理できたってー!」


 シャオ君が声をかけてくれた。後ろには、妹のイリスちゃんの姿も見える。

 あれ?今、エヌさんが何か言いかけていたような。


「あ、いえ、なんでもない……です」


 夕食はいつもより豪華だった。

 シャオ君たち家族も一緒のテーブルで夕食をワイワイと食べ、そのまま部屋に戻った。

 明日からも、頑張れそうだ。

 ……あれ、何か忘れてるような。

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