第2話 白兎の宿
別の人に中央広場までの道を聞き、『白兎の宿』に向かうことにした。
「へえ、お兄さんは、剣士なのか!めっちゃ強そうだな!」
「そんなことないよ」
「そんなことないのか!まだまだだな!」
向かう途中も、男の子の方はずっと話しっぱなしだった。
元気いっぱいな男の子……兄の方と比べ、妹の方は、出会ってから一度もしゃべっていない。ずっと兄に手を引かれたまま、黙り込んでいる。警戒されているのかもしれない。人見知りなのかな。
「そうだ、そういえば、まだ名前を言っていなかったね。俺は、ノモサ。よろしくね」
「ノモサお兄さんね!オッケー!俺は、シャオ!こっちは妹の……ほら、挨拶して」
兄……シャオに促されて、妹は、か細い声で「イリス」と名乗った。
「シャオ君に、イリスちゃんだね。よろしく」
「よろしくな!ノモサお兄さん!」
「……よろしく」
そして、少し歩くと、噴水のある広場に出た。ここが、さっき言っていた中央広場ってところだろう。中央広場からは、大きな通りが四方向に伸びている。そして、後ろを振り返ると、門が遠くの方に見えた。
「へえ、立派な噴水だな」
「領主様とか、聖教会の人たちとかが造ったらしいよ!」
見ると、噴水の中央には祈りを捧げる修道女の石像が建っている。なるほど、聖教会の人たちが造った、とはこういうことか。
「……ここからなら、道分かるよ!こっち!ついてきて!」
「それは良かった。それにしても、この町って広いんだな。迷子になりそうだ」
「気を付けろよ!まあ、町の外壁沿いに進んで、大通りまで出れば帰ってこられるんだけどな!」
「なるほど。うん、気を付けるよ」
そして、兄妹に付いていき、そのまま細い道に入っていく。この広場までの道は、覚えておこうと思いつつ、付いていく。
そして、彼らが立ち止まったのは、2階建てではあるが、こじんまりとした木造の宿だった。古いとか汚いとかではなく、居心地のいい空間、と言うか。とにかく、一目見て、気に入った。
「ここだよ!」
「いい雰囲気の宿だね」
兄妹二人の後に続いて、中に入った。
「ママ、ただいま!お客様1人ごあんなーい!」
「はい、お帰り……お客様?」
「うん、連れてきた!」
奥から出てきたのは、二人の母親だろう。イリスは、兄から離れて今度は母親の後に隠れた。
「あらあら、どうも。白兎の宿にようこそ。私が、この宿の女将をしております。宿泊をご希望ですか?」
「はい」
「一泊、銅貨百五十枚ですが、期間はどれほど?」
「えっと、……ひとまず一週間くらいで」
「かしこまりました。朝食と夕食は、どうなさいますか?」
「え?あ……お、お願いします」
宿って、泊まるだけじゃないんだ。食事まで付いてくるのか。実際に泊まってみて、気に入ったらもっと宿泊期間を延ばせばいいか。
「七日間、二食付きですね。食事も併せて……値段は銀貨十八枚ですね。先払いで大丈夫ですか?」
「あ、はい!」
ということは、一泊銀貨三枚……銅貨三百枚か。
ノモサは、宿泊代を支払った。手持ちは、まだまだある。
村のじいさんばあさんから聞いた話によれば、一泊銀貨数十枚とかの宿もあるって聞いていたし、安めの宿を見つけられて良かった。
「では、部屋に案内と、説明を……そうね。シャオ、お願いできる?」
「は、はい!じゃあ、ごあんないします!こっちです!」
「頼むわね」
部屋は、階段を上って二階にあり、左右に三部屋ずつ、合計六部屋のみ。家族で経営しているのだろう。
「この部屋です!」
案内してくれた部屋の中は、綺麗に掃除されていた。明かり取りの窓が空いていて、ベッドと、その横に小さな机まで用意されている。家の寝室よりは狭いけど、荷物を置いてもある程度余裕はあるだろう。
シャオは、何かを思い出すように、説明をし始めた。きちんと、両親から聞いて、覚えているのだろう。
「えっと……便所は、共用で宿の裏にあります。湯浴みは、夜中は出来ないので注意してください。食事は、下の食堂で出しますが、部屋に持ってきてほしい時は、言ってください。後……えっと……あ、お弁当は、前日までに言ってくれれば、銅貨五十枚で用意します!」
へえ、なるほど。色々と決まりがあるのか。
「ありがとう。この宿にしてよかった」
「あ、えっと……ごゆっくりどうぞ!また後でな、ノモサお兄さん!」
そう言うと、シャオは扉を閉めて去っていった。どたどたと階段を駆け下りていく音と、「ママー、ちゃんと説明してきたー!」という声が聞こえた。元気だね。
さて、宿も決まったことだし、荷物を置いてから、出かけようか。
この町の……『冒険者ギルド』とやらに。
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