2章 オスターの町
第1話 宿探し
「おっ、見えてきたな」
ノモサがコシュ村を出てから、徒歩で4日。やっと、大きな町が見えてきた。
「あれが、オスターの町か」
村のみんなから聞いた話によると、オスターの町は北の地域の中では一番大きな町であるらしい。町は、塀に囲まれている。
「えっと、あそこが門か。人が並んでる」
村とは違い、きちんとした門が設置されている。行き来している人も多く、門の前には何人か順番待ちをしている人がおり、ノモサはその一番後ろに並んだ。
「さて、次の方ー」
「はい!」
列に並んで少し待ってから、順番が回ってきた。
「通行証や、冒険者証は持っているか?」
「あ、いえ、持ってません」
「では、こちらに来てくれるか?問題が無ければ、臨時の通行証を発行しよう」
「あ、はい。わかりました」
衛兵に連れられて、部屋に通された。そこで、名前や訪れた目的等を根掘り葉掘り聞かれる。そして、結局町に入れたのは、30分も過ぎた頃だった。
「町に入るだけでも、こんなに時間がかかるのか……と言うか、やけに人が多いな」
そして、ノモサは町に入った。
オスターの町は、左右に大きな建物が建ち並んでおり、それがずっと遠くまで続いている。また、道では、大勢の人でにぎわっていて、馬車も沢山行き来している。
「えっと、この後は……まず、宿を探して、荷物を置いてから、冒険者ギルドのオスター支部……とやらに行かないとだな。えっと……どっちに行けばいいんだ?」
ノモサにとって、この町に来たのはもちろん初めてのことである。この町までの道は村の人たちに聞いていたが、この町の地図は知らない。
「ああ、さっきの衛兵さんに聞けば良かった」
振り返ってみたが、門を行き来する人が多く、忙しそうにしている為、聞けるようには見えない。
ノモサは、道を行く男性に、宿を尋ねた。
「ああ、宿ね……ああ、この町は初めてなのか。そう。僕のおすすめは、この隣の通りにある『美海の宿』だね。南部の海で取れた魚料理を提供していることが売りでね。結構値段は高いけど、いい宿だよ」
今度は、別の人に聞いてみる。
「宿?そうね、あたしも詳しくないんだけど、あたしが泊まっていた宿は、『赤巻亭』ね。一階が酒場で、二階が宿屋になっているのよ。安いわりに、部屋も広いわ。まあ問題があるとすれば、下で騒いでいる音が聞こえてきて、寝づらいことくらいかしらね」
さらに、別の人に聞いてみる。
「おお、偶然だね!僕の知り合いが宿を経営しているんだ。『黒原の宿』っていうんだけどね、ここが、凄い宿なんだ。きちんと用心棒も雇っているし、荷物を取られるようなことは絶対にないんだ。君みたいな、1人気ままな旅人にはぴったりの宿だよ。運命だね。よし、そこに今すぐ案内しよう。さあ付いてきて、さあ!」
「いえ、大丈夫です」
走って逃げた。
「うーん、どうしようか……宿探しって、難しいんだな……」
逃げるために、細い道を通ったせいか、今どこにいるのかわからない。とはいえ、町の雰囲気も知りたいし、このまま歩くことにする。良い宿も見つかるかもしれないし。ただ、手持ちも少ないし、そこまで高い宿に泊まるわけにはいかない。ルイミーさんからもらった金貨は、いざという時の為に取っておきたい。
「あの、そこの、お兄さん!」
「え?」
唐突に話しかけられたので、そちらを見ると、10歳くらいの男の子と、その子より少し幼い女の子が駆けよってきた。恐らく兄妹だろう。話しかけてきたのは、男の子の方だ。
「もしかして、お兄さんは、宿屋を探してる?……あっ、探して、ます?」
「えっと、そうだけど?」
「やっぱり!俺たちの家がそうだよ!良かったら来る?多分部屋空いてるよ!……あ、えっと、空いてるよ、です」
「別に、敬語を使わなくてもいいのに」
「でも、ママ……じゃなくて、お母さんが、いつもお客さんに対して、こんな感じでしゃべってるから。俺ね、将来はパパとママの後を継いで、『白兎の宿』をこの町一番のでっかい宿屋にするんだ!」
ちょっと失礼だけど、この子達の服装から見て、そこまで高級な宿ではなさそうだし。ここで話しかけられたのも一つの巡り合わせなのかもしれない。
「そっか。うん、いい夢だね……なら、せっかくだし、案内してもらおうかな」
「わかった!えっと、まず、町の中央の広場の噴水のところまで案内してくれ!そっからなら、道がわかるから!」
「……え?」
「……え?」
聞くと、この兄妹は迷子だったらしい。道を聞くついでに客引きをするとか、この子は結構強かである。
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