第13話 旅立ち

「ああ、今日が旅立ちの日だっけ」


 朝、目覚める。部屋は、綺麗に片付けた。

 ルイミーさんが去ってから、丁度一ヵ月後。今日が、この村を出る日だ。

 昨日は、村を挙げての宴会だった。


 冒険者になる、と決めたはいいものの、いくつか問題はあった。

 自警団の仕事のこともあるし、そもそも一番近い町すら知らない。家族に何も伝えてないということもある。


 まず、自警団の仕事は辞めた。最後まで、隊長さんとかは惜しがってくれたが、きちんと区切りをつけることが大切だから。とはいえ、引継ぎもあるし、結局それから2週間は働いたが。


 次に、この村の外のことについては、昔貴族の屋敷で働いていたダイワ爺さんとか、村の外をよく知っている村の人に、聞いた。ここから一番近い町までは、歩いて4日程度かかるらしい。後、嬉しいことに、昔使っていた旅用具をもらったり、旅の知識や技術を教えてくれた。


 家族に対しては、色々考えたが、いつ帰って来るかもわからないし、手紙で知らせることにした。反対されることは、多分ないし。姉に対しての手紙には、ルイミーさんへの言伝も記しておいた。あの姉のことだから、伝えてくれるかどうかわからないし、そもそもどれくらいの頻度で会っているのかもわからないけど。




 いつも通りの鍛錬、朝食。最後に片付けをし、全ての準備を整え、家を出る。

 次にこの家に帰ってくるときは、一回りも二回りも成長して、強くなって帰ってきたい。その為に、冒険者になり、剣の腕を磨くのだ。


 村の入り口まで歩いて行く間にも、何人もの村人から声をかけられる。

「頑張れよ」

「寂しくなるなぁ」

「行ってらっしゃい」



 そして、村の入り口では、グラフが待っていた。

 門にもたれかかるように立ったまま、どこか遠くを見ている。

 近づいていくと、視線が合った。


「おはよー」

「おはよう」

「いい天気だなー」

「そうだね」

「家とか、後のことはー、何とかしとくからさー」

「ありがとう」


 グラフは、こんな時でも、いつも通りののんびりとした様子のままだった。


「……」

「……」


 と思っていたのだが、何故か急に黙ってしまった。

 俺の方も、何を話せばいいのか分からなくて、言葉に詰まってしまう。

 いつもなら、グラフが話始めるのを待っている所だ。


「世界一の冒険者。……は無理でも、強くなって、帰って来るから」


 自分からそう告げる。グラフは、一瞬表情を曇らせたように見えたが、すぐに、笑顔に戻った。


「あー、そうだなー。そん時は、色々話を聞かせてくれよー」

「うん」

「絶対、だからな」

「もちろん」

「なら、良し」


 その後も、少しグラフと話をした。いつものように。他愛もない話を。

 しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。名残惜しいけれど、もうそろそろ出発しないといけない。


「じゃあ、もう行くね」

「……あ」


 グラフは、何か言いかけたが、途中で言い直した。


「あの赤い人に、よろしくな」

「そうだね。ルイミーさんにも、きちんと会って来るよ」

「ノモサ、頑張ってねー」

「ああ。行ってきます!」

「行ってらっしゃーい」


 別に、今生の別れ、というわけでは無い。色々片付いたら、きちんと村に帰って来るつもりだ。


 村の外に、一歩一歩歩いて行く。

 いつも通っている道なのに、何故か新鮮なものであるように感じる。

 振り返ると、村が遠くに見える。怖い、帰りたい、という気持ちが頭をよぎったが、振り払う。


「行ってきます」


 村に向けて、これまで育ってきた感謝を込めて、呟く。

 よし。

 さあ、出発だ!

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