第9話 正体と勧誘

「まず、ルイミーさんがこの村に来た本当の目的とか、教えてもらえないでしょうか」


 家に戻ってから、テーブルで向かい合って座って話を聞く。


 ルイミーさんは、言葉を選ぶように、話し始めた。

「……そうですね。一言で言うと、私は貴方をスカウトしに来たんです」

「スカウト?」

「私は、学院で魔法学の教員をしています」

「え!そうだったんですか!?」


 学院?うちの姉が通っている所……だよな?そこの教員?にしては、若すぎるし、学生だって言われても納得できるのだけれど。


「ノモサ君、貴方のことは、貴方の姉から聞いたんですよ。黙っていて、ごめんなさい」

「そうだったんですね。ちなみに、なんて言ってたんですか?」

「……それは、その……秘密です」


姉は、俺の事を何と言ったのだろう。


「まあ、それは置いておくとして、スカウトってどういうことですか?」

「私は、休暇の度に、辺境の村を回って、才能のありそうな若者に声をかけて回っています」

「はあ」

「つまり、推薦入学、ということです。村長と、自警団の隊長には、話は通してあります」

「え……」


 ルイミーさんによると、推薦入学は、簡単な面接を受けるだけで合格が決まるらしい。つまり、ほぼほぼ確実に入学できるらしい。


「貴方は、学院で剣を学び、鍛え、極めたいと考えますか?」


 剣?

 まあ、もっと剣技を上達させたいと思ったことはあるし、『勇者』みたいな存在に憧れたこともある。

 だけど、待ってほしい。

 昨日まで学院に通うとか、全く考えたことも無かった。この村から出るつもりも無かったし、代わり映えのしない毎日を過ごすつもりだった。

 そんな俺が、推薦入学?現実味が無い。


 答えを出せないでいるのを見たのだろう。ルイミーさんは、こう言った。

「ああ、私がこの村を去るのは、明日です。明日の朝までに、答えを出しておいてください」

「はい……そうします」


明日の朝、か。長いようで短いな。


「さて、ひとまず、食事にしましょうか。今日は、私が用意します」


 ルイミーさんは、何も荷物を持っていないと思っていたが、魔法で圧縮してローブの内側に入れていたらしい。食料も、持ってきていたようだ。

 この村に来ていた冒険者で、こんな事をしていた冒険者は多分いなかったし、学院の教師をする位、この人は凄い魔術師なんだな、と思う。今日行く前に言っていた『ある程度は戦えます』というのは、謙遜だったのだろう。


 ちなみに、夕食時に、姉について聞いてみた。

「そういえば、学院での姉はどんな感じなんですか?あまり知らなくて」

「……入学初日に、主席入学者に対して喧嘩を吹っかけていましたね」

「ああ、それは納得です」

「後は、私に対しても何度も魔法戦を挑んできました」

「相変わらずなんですね」

「今は、教師と生徒、ではなく、友人のような関係ですね」

「なるほど。そういえば、昔の話なんですが……」

 結構盛り上がった。






 夜。

 ノモサは、一人で考え込んでいた。


「学院、か……」

 姉が学院に行くと決めた時、何と言っていただろうか。旅立つ時に、何と言っていただろうか。確か、「世界一の魔術師になる!」とか、言っていた気がする。


 世界と言っても、俺は、この村から出たことも無いし、この村の外の事なんて、姉や両親から聞いた位だ。何も知らない。


ルイミーさんは、見た目からして若いのに、学院で教師をしているなんて、本当に凄い魔術師だ。そんな人に、認めてもらえて、推薦入学できるってことは、凄いことなんだろう。こんな機会は、きっとこの先も、無い。


「……」


 行って……みようかな。

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