第8話 魔物との模擬戦

 ルイミーさんが離れた後、ファイちゃん(?)とやらと向き合い、剣を構える。

「この魔物は、ファイヤーウルフロウ。ファイちゃんです。では……始め!」


 ファイヤー?この村の近くに出る魔物は「ウルフロウ」って冒険者の人が言っていたはず。ということは、いつもの魔物とは違うのか。気を付けないと。


 模擬戦?と言うか戦いが始まった。ファイヤーウルフロウ……ファイちゃんが駆けてくる。思っていたより、素早い!


 俺は、いつもカウンター的な戦法を得意としている。村人を守るためには、あまり動き回って戦うことは好ましくないからだ。

 いつものウルフロウなら、首を爪で引き裂こうとしてくるはず。跳びかかってきたところで、倒す!


「ファゥ!」

 ファイちゃんの動きをよく見る。力は込めつつも、剣はまだ動かさない。

 前足から、跳びかかってくる。タイミングを見極めて、

 

「……せいっ!」


 一歩右足を引き、爪が届く前に、剣の腹の部分で横なぎにファイちゃんの胴体部分にたたきつける。

「ファゥルゥ!」


 思ったより、ファイちゃんは綺麗に飛んでいく。しかし、そのまま地面に叩きつけられて終わると思ったが、くるっと回って着地した。


「このままでは終わらないか……」


 ちらりとルイミーさんの方を見ると、じっとこちらを見ている。目が合った。まだ続ける……のか?


 視線を戻すと、ファイちゃんの鼻先に、パンと同じくらいの大きさの火球が生まれていた。

「ファイァ!」

「え?」


 また跳びかかってくると思ったのだが、魔術が使えるのか?って、だから「ファイヤー」ウルフロウなのか!

 飛ばしてきた火球を、大きく横に跳んで避ける。しかし、ファイちゃんは、次の火球をまた用意している。


「ファイァ!ファイァ!」

「えっ!ちょっ……」


 思ったより火球のスピードも速くて、避けるので精一杯だ。距離を詰める暇がない。ファイちゃんは、そのまま連続で10発くらい火球を打ってきた。避けることは出来てるけど、このままじゃ埒が明かない。

 一向に当たらないことにしびれを切らしたのか、ファイちゃんは火球を打った直後に、その火球の後からこちらに駆けてきた。避けたところに、そのまま跳びかかってくるつもりなのだろう。


「ファゥゥ!」


 目の前に火球が迫ってくる。しかし、大きく避けるとファイちゃん自身の対処に間に合わない。


「なら……避けなければいい!」


 火球を、左の肩で受ける。

 熱い!熱いし服が焦げている気がするが、剣を振るのに支障はない。ファイちゃんが跳びかかってくる。しかし、体勢は崩れていない。そのまま、剣筋を意識して、剣を振る。今度は、剣の腹ではなく、そのまま首を落とすつもりで斬る。爪よりも、剣の方がリーチは長いはず!


「ファウウ!」


 ファイちゃんの首を浅く切り裂いた。致命傷には至っていないのかもしれないが、重症には間違いないだろう。服は、焦げてはいるが、燃えてはいなかった。

 そのまま止めを刺そうとしたところで、ルイミーさんの声が聞こえた。


「そこまで!」


 模擬戦は、これで終わりなのだろう。そして、そのままファイちゃんのところに歩み寄っていく。

 俺は、どっと疲れが出てきて、その場に座り込んだ。左肩が痛い。


「……ゥゥゥ」

「よく頑張りましたね」


 そう言うと、ルイミーさんはローブの中から何か石のようなものを取り出した。そして、ファイちゃんに食べさせる。回復薬とか、なのだろうか?あ、傷が治っていく。


「ノモサ君、ありがとうございます。家に戻ったら、きちんと事情を話します」


 いや、俺にも回復薬とかはくれないのだろうか。かなり火傷してるし、そもそもこの怪我、戦いは、ルイミーさんのせいだし。


「ああ、怪我をしていましたね。これをどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 聞く前に、ポーションをくれた。一気に飲み干すと、少し痛みが引いた気がする。

 そして、左肩が、と言うか全身がとても熱くなってきた。

 これ、気温も上がっているのでは?

「はい、帰りましょうか……って、木が燃えてます!」

「ファゥ?」


 その後、木々に燃え移った火をルイミーさんが消してから、帰路に着いた。

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