第7話 森の中で

 採取後。その場で昼食を済ませた後、しばし休憩をしていた。警戒は怠っていないが。

「これって……ジュケト草、ですか?」

 サーラばあさんが集めた薬草を見て、ルイミーさんが聞いた。

 ちらりと見てみると、確かにいつもは見ない薬草だった。葉の先が丸くなっていて、2本の白い筋が通っているのがわかる。

「あらあら、流石ねぇ。そうよ、竜の呪いには、これを元にした薬が一番よく効くのよ」

「でも、ジュケト草の調合って、かなり難しく、調合が出来る薬師は一握りだと聞いたような気がするのですが……」

「私も、今はこの小さな村で薬師をしているけどもねぇ、昔は王都でもちょっと有名な薬師だったの」

「え?そうだったんですか?」

 サーラさんは、俺が小さい頃からずーっと村にいるから、てっきりずっと村で過ごしていたんだと思っていた。

「ええ、そうよ。まあ……色々。そう、色々あってねぇ。この村に戻ってきたのよ。でも、王都勤務の時の知り合いとは今も手紙で連絡を取り合っているし、何年かに一度は会いに来てくれるから、いろんな噂話は入ってくるのよねぇ」

「なるほど。それで、色々……詳しいのですね」

「そうよ。さあ、帰りましょうか」


 よし、帰りは魔物が出るかもしれないから、気を引き締めていこう。



 と思いながら帰路に着いたのだが、結局魔物は出なかった。

 今日は、魔物が少ないのだろうか?まあ、ルイミーさんもいたし、遭遇しないに越したことは無いけど。


 そして、昼を半分くらい回った後、村の入り口、門の前に着いた。

「さあて、私は家に帰って薬を作るとするかねぇ」

「では、サーラさん。私とノモサはこの後用事がありますので。ここで失礼します」

「え?」

 いや、用事?聞いてないけど。

「そうかい?じゃあ、気を付けてね、薬草、ありがとうね」

「あ、いえ、頑張ってください!」

サーラさんが去っていくのを傍目に、ルイミーさんに聞く。

「用事って何ですか?えっと、まだ時間はありますけど、詰所にも行かないといけないんですが」

「すぐ済みます。付いてきてください」

 そう言うと、ルイミーさんは村の外に歩き出す。

 外?忘れ物……ではないよね?


 そのまま、ルイミーさんは森に入っていく。

「何をするつもりなんですか?」

「説明は後でします」

 ルイミーさんは、少し開けた場所で、立ち止まった。

 そして、懐から何かを取り出した。その形状は……

「笛?」

「ええ、笛です」

 そう言うと、そのまま笛に口を付けた。


ピュオォォォォーーーーーーーーーーーー


 何か、嫌な予感がする。ルイミーさんの持ち物や服装、サーラおばさんの態度から、悪人ではないと踏んでいたのだけど。警戒しておくべきだったのだろうか?


「何を……したんですか?」

「魔物を呼びました」


魔物を?まあ、この森にいる魔物のことは知っているし、負けるとも思えないけれども、村の近くである。魔よけの石碑の範囲の外に出ている人もいるかもしれないのに!


「どうしてですか?」

「それは、その、えっと……ノモサ君の為です」

 流石にこれは嘘だとわかる。もしかすると、この人は嘘をつくのが下手なのかもしれない。というか、それで納得すると思っているのだろうか。


「嘘はやめてください。どうしてですか?」


 ルイミーさんは、少し考えた後、話し始める。


「……いえ、嘘では、ないです。今日貴方に同行した理由は、魔物と戦っているところを見る、という目的がありましたから。さあ、もう魔物がすぐ近くまで来てると思いますよ。頑張ってください、ノモサ君。私は、見ていますから」

「勝手なことを……」


 本当に、何を考えてるんだ、この人は!

 魔物がいつどこから襲ってきてもいいように、構える。


 この森にいる魔物であれば、どうとでもなるだろう。さあ、どこから来る?




 ……





 …………あれ?


 魔物の気配は、しない。

 森を歩いている時も思ったが、どうして魔物がいない?


「何も起きないですけど」

「え?魔物呼びの笛を使ったのに……」


いつもは、魔物がいる。森の中で何時間も歩いていれば、必ず遭遇する。いつもと違うことと言えば……


「ルイミーさん。魔物がいないことに、何か心当たりはありますか?」

「……あ」

「何か、あるんですか?」

「あ、いえ、そんなことは……まあ、はい。仕方がないですね私が召喚するので倒してください」

「はい?」


 召喚?何だそれ?魔物を?と言うか、質問に答えてないし。

「我が眷属、ファイヤーウルフロウ、今一度、世に姿を現し、ここに顕現せよ!召喚!」

「ファゥフ!」

 ルイミーさんの前に、狼型の魔物が現れた。

 この森にもいたはず……あれ?色が違うけど。この森にいるのは体の色が黒い狼だったが、今目の前にいるのは赤い。ルイミーさんに頭をなでられて、気持ちよさそうにしている。


「ルイミーさん、魔術師だったんですか?」

 魔術師。詠唱を通して体の中の魔力を用い、何らかの現象を引き起こす人のことを言う。召喚とか、結構珍しいんじゃないのだろうか?

「後で、気が向いたら話します。では、この子を倒してください。さあ、ファイちゃん、頑張って」

「ファゥゥ!」


 後で、本当に話してくれるのか?今のところ、疑問が山積みだけど。

 と言うか、愛称で呼んでるし。倒すって……模擬戦ってこと?殺さないように手加減しておいた方がいいのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る