第6話 採取の依頼

「え?今日も、山に行くんですか?」

「ああ、薬師のサーラさんが、また薬草を採りに行きたいらしい。今日も、お前に頼みたいそうだ」


 鍛錬と、朝食の後。俺は、今日も詰所に来ていた。そして、ルイミーさんは一緒についてきていた。

 そして、隊長さんの話によると、一昨日一緒に薬草を採りに行ったサーラばあさんが、今度は森の奥に生えている特別な薬草が必要になったらしい。

 そこで、護衛、と言うか付き添いとして俺に白羽の矢が立った、というわけだ。

「えっと、ルイミーさんは、どうしますか?」

「ついていきます」

「そうですか。よろしくお願いします」


 まあ、魔物が出るとは言っても、弱いし、護衛対象が1人増えるとしても問題ないだろう。

 あれ?そういえば、ルイミーさんは一人でこの村に来た……ということは、この人もある程度自衛できる位には戦えるのだろうか。

 支度の為に一度家に戻る間に、聞いてみる。


「ルイミーさんって、強いんですか?」

「はい?」

「いや、一人でこの村まで来ましたし、少し気になったので」

「……私は、弱いですよ。何度模擬戦をしても、あの子に勝ったことが無い位ですし」

「あの子?」

「いや、こちらの話です。とにかく、私より強い人は、何人も、沢山、数えきれないほどいる、ということです。ある程度は戦えますが」

「そう、ですか」


まあ、この村の周辺には大した魔物は出ないし、自衛程度なら出来るんだろう。ならいいや。



 その後、門の前でサーラばあさんと合流した。

 サーラばあさんは、申し訳なさそうにしていた。

「ごめんねぇ、また付き合わせちゃって。一昨日行ったばっかりなのにねぇ」

「いえ、大丈夫です、仕事ですから」


 そこで、俺の後ろに立っていた赤いローブの人物に気づいたらしい。


「ああ、あなたが……」

「ルイミーと申します。初めまして」


 ルイミーさんは、サーラばあさんの正面に立つと、フードを下ろしてから挨拶をした。

 サーラばあさんは、ルイミーさんの格好に驚いているのか、上から下までよく見てから、答えた。


「……ああ、そうなのね。これはご丁寧にどうも、サーラです。ルイミー、さん。ノモサ君をよろしくねぇ」

「え?あ、はい、と言っても、私はただの一介の旅人ですが」

「そうね。さて、時間も勿体ないし、行きましょうか、ノモサ君」

「はい、よろしくお願いします!」


 サーラばあさん、ルイミーさんと共に、村を出て、森に入っていくことにした。



「そういえば、どうして急に薬草が必要になったんですか?特別な、薬草がどうとか言ってましたけど」


 道中。

 森の中を歩いているが、幸運なことに今のところ魔物に遭遇していない。警戒は続けつつ、サーラばあさんに尋ねてみる。


「ああ、そういえば、話してなかったねぇ。私の息子が、ここから南東の方にある町で、宿を営んでいるんだけれどね、その息子から手紙が来たのさ」

「へえ」

「その町……何ていったかしらね、ガ……ああ、そうそう、ガシートの町。その町の中で、火竜が暴れたのよ」

「竜!?」

「いつの話ですか?」

ルイミーさんも、興味があるのか、尋ねた。

 サーラばあさんは、思い出しながら、ゆっくりと答える。

「手紙によれば、五日前のことよ」

「そ、それで、町はどうなったんですか?」

「結局、暴れるだけ暴れた後、飛び去って行ったって書いてあったわね。残念なことに、何人も犠牲者が出たし、手紙によると、宿の下働きの子の家族も亡くなったらしいわ」

「……」

「竜の息吹によって、火傷と呪いを負った人が多くて。その為に、解呪の薬が足りなくなってね。私に手紙をよこした、ってわけなのよ」

「……そうだったんですね」


 知らなかった。というか、竜ってかなり珍しいんじゃないのか?

「魔よけの石碑があったはずです。竜が町中に出没するなど、ありえない」

 ルイミーさんが、独り言のようにつぶやく。

 確かに、魔よけの石碑があれば、魔物は町の中に入ってこないんじゃないのか?

「残念だけど、そこまでは手紙に書いていなかったわね。丁度壊れてしまっていたのかしらね」

「……そう、ですね」

 壊れることってあるのか。まあ確かに、5年に1度くらいの頻度で聖教会の人が来て石碑の交換をしていたし、丁度寿命、というか取り換える時期だったのかもしれない。

「確かに、貴方の立場からして、聖教会を」

「サ、サーラさん!」

 ルイミーさんが、大きな声を出して、サーラばあさんの言葉を遮った。

「今の、私は……ただの旅人です」

「失礼、ごめんなさいね。さあ、暗い話はこれくらいにしておきましょうか」


ルイミーさんって、一体何者なんだ?サーラばあさんは、何か知っているみたいだけど。後で、ルイミーさんがいない時にでも聞いてみよう。



 森に入ってから1時間くらい歩いた後、サーラばあさんが言った。

「ああ、もうすぐ生息域に入るわ。ノモサ君、ルイミーさんも、警戒はよろしく頼むわよ」

「はい、お任せください!」

「ああ、良かった。きちんとまだ生息していたようね」

 サーラばあさんは、木の根元に生えている薬草を採り始めた。

 サーラばあさんが薬草を採っているところは何度も見たことがあるが、とても丁寧で、手際が良い。一度聞いたことがあるが、採り方によっても薬草の、そして薬の質が変わってくるそうだ。

 いつも取っているのは切り傷に効く薬草(葉っぱがギザギザしている)だが、今日採っているのは、違う薬草なのだろう。


魔物の警戒をしつつ、サーラばあさんが採取しているのを見守る。


 結局、30分くらい採取をしていたが、魔物は出てこなかった。今日は、魔物の活動があまり活発ではないのだろうか?

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