第3話 突然のお願い
「お疲れ様です、ノモサとグラフ、門番の仕事から帰りました」
「おお、ちょうどいいところに帰ってきたな」
「先程昼頃さっきはありがとうございます、ノモサ君」
俺とグラフの二人で自警団の詰所に入り、隊長さんに報告をする。
隊長さんは、今年で51のおっさんだ。聞くと、昔は冒険者をやっていたらしい。隊長、なんて名乗ってるけど……まあ、一番偉い人だ(本人は「団長」より、「隊長」の方がカッコいいだろ?と言っていた)
そこには隊長さんの他にも、ルイミーさんがいた。また、ローブのフードを被っている。顔を見せたくないのだろうか。
彼女は、普段三人掛けで座っている長椅子に、一人で腰かけている。ルイミーさんがこの村に来たのは昼過ぎだったので、ずっとこの詰所にいたのだろうか?
「えー、だんちょーさん、ちょうどいいって何ですかー?」
グラフが尋ねる。ちなみに、「だんちょーさん」というのは隊長さんのことである。
隊長さんは、面倒くさそうに言う。
「ああ、お前は関係ない、帰っていいぞ。ノモサは残っていてくれ」
「ひゃっほーい、じゃあ帰りまーす。ノモサ、頑張ってねー」
「ああ、お疲れ様」
グラフは帰っていき、この場には、俺と隊長さんとルイミーさんだけになった。
「ひとまず、座ってくれ」
「はい」
俺は、ルイミーさんが座っている席の反対側の長椅子に腰かけた。
「それで、俺に何か用でしょうか」
「ああ、実はな…」
隊長さんの話によると、旅人用の貸家の屋根に穴が開いていることが判明したらしい。その為、ルイミーさんの泊まる場所が無いそうだ。
「お前、今一人で住んでいるんだよな。滞在するのは三日程度らしいし、宿代も多めに払って下さるそうだし、泊めてやってくれないか?」
「いや、待ってください、そんな急に言われても困ります。そもそも、何で俺の家なんです?」
隊長さんは何を言っているのだろうか。確かに、今は四人で住んでいた家を一人で使っているし、部屋も余っている。しかし、そもそも女性を男性の家に泊めるのは問題があるし、長いこと掃除していなくて汚いし、泊まる場所なんて他にも
「私が希望したからです」
……って、え?
一応、聞いてみる。
「えっと、今日が初対面、ですよね……?」
「いや、さっき門の前で会いましたよ?」
「そういうことじゃなくて!……まあいいです、えっと、どうして俺の家なんですか?」
「一人で住んでいて、部屋が余っていると聞きましたから」
「あ、両親とか、姉とかから聞いていたとかですか?」
「いえ、全く、全然、完璧に違います。ああ、あなたには両親や姉がいたのですか?」
「それはまあ、いますけど。両親は、今は村を出て、馬車で商売をしてます」
って、そうじゃない。話が脱線している。断らないと。後、隊長さんはニコニコしながら傍観しているだけだった。
「では、問題ないですね。行きましょう」
「あ、はい……って、待ってください!」
「おお、頑張れよーノモサ」
ルイミーさんは立ち上がり、隊長さんにお礼を言った。そして、そのまま外に出ていく。俺は、急いで追いかける。
詰所を出て、左右を見回す。少し先に、日が沈んで暗い中でも良く目立つ、真っ赤なローブの背中を見つけた。
「待ってくださいよ、ルイミーさん!」
後ろから呼びかけると、ルイミーさんは歩きながら振り返った。振り返ったが、ローブが邪魔で顔が良く見えない。
「これからよろしく、ノモサ君」
俺も、斜め後ろを歩きながら応対する。
「こちらこそ、よろしくお願いします……って、そうじゃないです!」
「何か問題でも?」
「俺は、泊めることは出来ません」
「んー、宿代は、三日間でこれくらい払いますよ」
ルイミーさんは、指を2本立てた。
銀貨4枚……ではないだろう。20枚、だろうか?あるいは……多すぎるとは思うが、金貨2枚?
ちなみに、銀貨1枚でパンが1つ買える位の価値だ。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚である。
「どうぞ」
「ああ、ありがとうございます?」
ルイミーさんが差し出してきた物を反射で受け取る。よく見ると、1枚の金貨だった。
「先に、半分払っておきます」
「いや、こんなにもらえません!というか、まだ泊めると決まったわけじゃ……」
「受け取ったね」
「え?」
「受け取ったね。これから3日間、よろしく」
「はい……」
3日間で金貨2枚。お金に困っているわけでは無いが、貯蓄が存分にあるわけでも無い。……仕方がない。本人が良いと言ってるし、泊めるか。
「そういえば、そもそも何の為にこの村に来たんですか?」
色々聞きたいことはあるが、一番初めに気になった事を聞いてみることにした。
ルイミーさんは、少し悩むそぶりを見せた後、答えた。
「私は、ただ単に、単純に、休暇としてふらりと訪れただけです。まあ、思惑は無いでも無いですが……気が向いたら教えますよ」
「そう、ですか」
休暇。ということは、普段は別の仕事をしているのだろう。貴族なのだろうか?冒険者……にしては、華奢だし弱そうだけど。あるいは……
「ルイミーさんは、本当に」
「もう家に着くよ」
「え?あ、はい……というか、俺の家の場所話しましたっけ?」
考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか家に着いていた。
「あ、それは、その、」
「ああ、隊長さんから聞いていたんですか?」
「あ、そう、間違いなく、丁寧に、一から十まで完璧に説明してくれましたよ」
あ、そうだったんだ。隊長さんなら、俺の家も知ってるし、納得。
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