第2話 赤い来訪者

 次の日。起きて、朝の鍛錬を行った後、仕事に入る。

 今日は、二人一組で村の門の前での警備に入ることになった。小さな村である為、通る人はほとんどがコシュ村の住人である。


「あ、カルドさん、こんにちは!今日も木材の調達ですか?」

「うむ」

「こんにちは、ノースおばさん。森に行くんですか?」

「あらあら、こんにちは。ノモサ君は今日は門番なの?頑張ってね」


「ノモ兄ちゃん、グラ兄ちゃん、遊ぼ!」

「よーし、遊ぶかー」

「何言ってんの!?ごめんね、今は仕事中だから無理なんだ……後、村の外には出ないでね」

「はーい」


「はー正直暇だよなー何か起こらないかなー」

「いやいや、重要な仕事だよ。魔物はともかく、盗賊とかが来ないとも限らないし」


 隣でぼやいているこいつは、グラフ。同じく警備隊の一員で、俺と同い年だ。警備隊でも同期で、門番の時はグラフと組まされることが多い。さっき子供と遊ぼうとしていたことからわかるように、だらっとしたやつである。


「いやいやー、こんな辺鄙な村、盗賊も狙わないってー。特に何もないしなー」


 確かに、うちの村には特別なものは何もないし、盗賊なんて何十年も出ていない。

 ちなみに、王都では、お菓子とかきらびやかな服とか、魔道具とか売っているらしい。後、王城や教会も首が痛くなるほど大きいらしい。どちらも、両親から聞いた話だけれど。


「ノモサはさー、王都に行ってみたいとか思わないのー?」

「俺は、この村で適当に暮らしていたいな。服とかお菓子とか、興味ないし」

「王都の方には、もっと強い魔物とかいるんじゃなーい?ノモサ、この村で一番剣術得意だしー、冒険者とかで食っていくことは考えないのー?」


 冒険者。魔物を倒すことで生計を立てている者たちだ。この村にも、たまに冒険者を名乗る人たちが訪れることがある。しかし、この村の周辺に強い魔物がいないことを知ると、皆去っていく。

 俺は、自警団に入って間もないが、隊長さんと、昔貴族の屋敷で護衛をしていたらしい、ダイワ爺さん以外には負けたことが無い。


「うーん、剣を振るのは好きだけど、俺は大して強くないし、別にこの村でいいかな」

「そっかー」



 そして、ぽつぽつと適当に会話をしつつ、昼頃。

 村の外に続いている道から、真っ赤な何かが近づいてくるのが見えた。


「なあ、あの赤いの、魔物かー?」

「いや、どうだろう……」


 腰に下げている剣をいつでも抜けるように準備しつつ、近づいてくるのを待つ。魔物であるならば、村の中に入ることは無いが、出来る限り倒しておいた方がいい。


「あれは……人かー?」

「わからない、魔物かも。戦う準備して」

「はいよー」


 まだ遠くて顔はわからないが、確かに、真っ赤なローブを纏っている人、に見える。

 そして、さらに近づいてきて、真っ赤な何かの正体がわかった。

 彼、あるいは彼女は、刺繡の施されていて高級そうな、赤いローブを纏っている人間だった。身長は、やや高い位だろうか。フードを目深にかぶっている為、顔は陰になって良く見えない。少なくとも、村ではこんなローブは見たことが無いので、外からやってきた人間だろう。そして、大きな荷物を持っていない為、商人ではないと思う。


「どうもこんにちは、ここはコシュの村です。どのような用件で、この村にお越しでしょうか?」


 近づいてきた赤い人に呼びかけると、赤い人は立ち止まって、フードを下ろした。


「私は……何の変哲もない、ただの平凡で正直な旅人です。少しの間滞在させてほしいのですが」


 そう自己紹介した彼女は、ルイミーと名乗った。顔立ちは整っていて、髪は頭の後ろで一つに束ねられている。胸元には、青い宝石が埋め込まれたブローチが輝いている。

 丁寧な言葉遣いや高そうなローブ、ブローチから、彼女が身分の高い人間であり、身分を隠して訪れた可能性もあるが、ここは辺境の村であるし、ノモサ自身も村から出たことが無い。王侯貴族に会ったことも無ければ、顔すら知らない。

 少し考えたが、いつもと変わらない口調で自己紹介をした。


「これはどうも!俺は、ノモサと言います。この村で、自警団に所属しています」

「同じくーグラフですー」

「どうも丁寧にありがとうございます」

「では、この先の広場の北側に自警団の詰所があるので、そこに行ってください。白い看板の建物です」

「滞在の手続きやー、村の案内もそちらで出来ますんでー」

「なるほど、まずは、始めに。ひとまず、そこに行ってみます」


 そう言うと、ルイミーさんまたフードを被り、村の中に入っていった。

 その真っ赤な後ろ姿を見送っていると、ある程度遠ざかったところで、グラフが話しかけてきた。


「あのさー、あの人、ただの旅人じゃないよなー。へんなローブ着てたし、旅人にしては荷物も少なかったしー。結局、何のためにこの村に来たのかわかんないしー」

「まあ、悪い人じゃなさそうだし、良いんじゃない?」


 とはいえ、グラフの言うとおりである。ただの旅人にしては、おかしいことが多い。しかし、盗賊の類にしては身に付けている物が高価すぎるし、魔物がしゃべったり、村の中に入ったりすることは出来ないはずである。


「まあー、俺たちが考えることではないよなー。おっ、カルドさんが帰ってきたようだぞー」

「うん、仕事に戻ろう。カルドさーん、お疲れ様でーす!」

「うむ」



 その後は、特に何もないまま日が暮れて、その日の仕事は終わった。

 しかし、彼女が何者であるのか、少し気になって、なんとなく仕事に集中できなかった。


 そして、グラフと話しつつ、報告のために詰所に向かう。

「よーし、早く戻ろーぜ」

「そうだね、早く帰りたいし、ルイミーさんがどうなったのか知りたいし」

「あー、あの赤い人かー」


 詰所に入ると、ルイミーさんがいた。

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