1章 旅立ち

第1話 いつもの日常

「いつもありがとうね、ノモサ君」

「いえいえ、これが仕事ですから!」


 ここは、王国の辺境にある小さな村、コシュ村だ。俺は、この村で自警団に入っている。とはいえ、実際に魔物と戦うことはそう多くない。20年位前から、王都の聖教会が全ての村に魔よけの石碑を設置してくださったことで、村には魔物が入ってこないのだ。まあ、そもそも村周辺、森の魔物は弱いものばかりだが。

 日中の主な仕事は、村の入り口に立って、訪れた商人を案内したり、村のじいさんやばあさんが森に採取に行くときに同行する、といった仕事が多い。

 今も、薬師のサーラばあさんと薬草を採りに行って、帰ってきたところだ。


「そうそう、家に寄ってきなさい、夕飯、食べていくといいわ」


 サーラばあさんは、いつも採取の後、夕飯に誘ってくれる。一緒に食べることもあるのだが、今日は森の奥まで行ったので、サーラばあさんも疲れているだろう。わざわざ二人分作ってもらうのも悪い。折角誘ってもらって悪いとは思うが、遠慮しつつ断った。


「そう?ご飯はきちんと食べなさいね、伸び盛りなんだから」

「ありがとうございます!あ、詰所に寄るので、俺はここで失礼します!」

「いつもありがとうね。また森に行くときは、よろしくね」


 自警団の詰所に寄って報告をした後、家に帰る。

 俺の家は、村の中心から少し歩いたところに建っている。一人暮らしだし、俺の家とは言ったが、もともと家族で住んでいた家である。とはいっても、家族が死んだわけでは無い。両親は商人として各地を回っていて、二月に一度くらい帰ってくるし、姉は学園、とやらに通っていて、月に一回くらい手紙が届く。俺は勉強をしたいとは思わないし、剣を振って、走り回っている方が性に合っている。


「ただいまー」


 なんとなく挨拶をしつつ、家に入る。疲れているのは、俺も同じだ。

 今朝汲んだ井戸水で手をゆすいだ後、棚を漁って、数日前に買ったパンと野菜、塩漬けの肉を取り出す。パンを切り、はさむ。夕飯にしては粗末ではあるが、いつものことだ。黙ってもそもそと食べる。


 あっという間に食べ終わると、もうやることは無い。無駄に広い家を通り、寝床に入る。今日は疲れたな、明日も頑張ろう。


俺は、この生活に満足していた。

次の日から、ちょっとした騒動があることも知らずに。


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